8.市川準が映画のコードを総動員して村上春樹作品の映像化を試みた、というような印象を持ちました。そして、かなり成功していると思います。原作は未読だけど、小説の中の文章をそのままシナリオに転用していると思える部分が多々あった。彼の文章を映像にすると、結果として限りなく詩的なエッセイに接近するようです。ストーリーらしきものが無く、シチュエーションの断片が積み上がる。それぞれのシチュエーションに登場人物がどのように感じたかは語られるが、「なぜ」そのように感じたかは語られない。ただ、そこからは哀しみや孤独だけが立ち昇ってくる。事象の表層から、特定の感情だけをすくい取り、まるで人は何かを失くすために生きているように見せる。それを繊細と感じる人もいれば、意味不明と憤る人もいるだろう。私は村上文学のテーマは「喪失感の描き分け」と思っていますが、本作からはそのエッセンスが十分に伝わってきました。通常の文法で映画を作るとこの味わいは得られない。本作が面白いかどうかは別にしても、私は拍手したいです。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-01-02 15:44:22) |
7.この映画には独特な雰囲気がある。空気感がある。観れば分かる。それを感じるだけでもすごく刺激的だ。普通の映画に比べておおすぎる朗読、すくなすぎる音、短すぎる上映時間。そういう比較が虚しく思えるほど、この映画は表現したいことのために表現できているという意味で完結している。映画の中でトニー滝谷の孤独が感じられたことで、僕は、孤独なのは僕だけじゃないと思えた。孤独なものどうしが逆説的に共感し合えるなんて素敵ではないか。 |
6.とても静かな作品。抑揚は無いがシーンの切り替えはリズムがよく、短い時間も好感がもてる。イッセー尾形と宮沢りえは2人とも好きな俳優なのでよかったのかもしれない。まるで空に浮いているかのように美しい映像。坂を駆け上がってくる宮沢りえが印象的。秀作。 【カリプソ】さん [DVD(邦画)] 8点(2007-02-01 01:14:28) |
5.映画を観ながら、小説を読んでいる。そんな体験ができる不思議な映画です。 【paraben】さん [DVD(字幕)] 8点(2006-05-22 15:51:02) |
4.村上春樹の原作の持つ空気が、うまく出ていると思います。絵画のような映像は、映画というより絵本や紙芝居を見るような感じ。でも宮沢りえがいなければ、厳しかったかも知れない・・と思うほど宮沢りえがハマリ役です。すごくいい。春樹が小説で描く世界というのは、実は根底の部分ではすごくエグイのですが、この映画は表層だけを、その空気だけをうまく切り取って見せてくれてます。映画としてうまく昇華したのではないでしょうか。音楽もあいまって、なんてことないシーンで何度も涙がぽろぽろ・・・ひとりで見て良かったです。エンドロールの辺りからもジワジワ、かなり後までひっぱってしまいました。良作。 【タマクロ】さん [DVD(字幕)] 8点(2006-01-29 17:57:44) |
3.私はかなり村上春樹の小説が好きなのですが、この映画に流れる雰囲気は村上春樹の小説のそれと似ていると感じました。美しい曲、美しいナレーション、美しい女優、そして美しい洋服。ナレーションの最後の部分を登場人物がしゃべるのが最初違和感がありました。あれはナレーションと映像を結ぶ役割があったんでしょうか?穏やかな映画だけど心がざわつきました。ハルキストとしてプラス1点 【サイレン】さん [DVD(字幕)] 8点(2005-11-04 00:00:47) |
2.次々と繰り出される横移動のカメラによる平面的な映像は、どこか都会的でアンニュイな雰囲気を漂わせている。今の場面と次の場面との繋ぎの役割を果たしているのは柱や壁。それらの影から登場人物たちをそっと覗き見しているような感覚は、昨今のドマラ性のあるCMを観ているようで、CM界出身という市川準のセンスを存分に感じさせる映像表現である。すべてを忘れ捨て去ったときに初めて生涯で最も大切なものに気づくというテーマの本作は、しかしながらストーリーを語っていく作品ではなく、あくまでも映像で綴っていくタイプの作品だと言える。だからだろうか、研ぎ澄まされたセリフのひとつひとつには深い思いが込められ、少ないセリフだからこそ余計胸に突き刺さるのである。登場人物は基本的にイッセー尾形と宮沢りえの二人だけ。長年一人芝居でキャリアを積んできたイッセーの才能は、ここに於いて遺憾なく発揮され、彼にしか出せない味を体現してくれた。また「父と暮らせば」などで二人芝居づいている宮沢りえは、二役をさり気なくしかし絶妙に演じ分け、一段と演技力が増したように思う。演技力があればこその起用であろうし、二人とも見事それに応えている。 【ドラえもん】さん [映画館(字幕)] 8点(2005-06-29 11:10:55) |
1.左から右へゆっくりと流れていくカメラと遮蔽物によるシーンのつなぎは、本の頁をそよ風が1枚1枚めくっていくようでとても落ち着いた雰囲気にあふれた映画でした。ぼそぼそとした西島秀俊のナレーションと坂本龍一のピアノ、抑制されたイッセー尾形と宮沢りえの表情、ふわっと揺れる宮沢りえの黒髪、モノトーンにくすんだ画面、バックを白く明るく人物を影にした構図・・・アンティークな喫茶店で壁にかかった絵画を眺めているような気分でした。服に埋もれた宮沢りえが突然泣き出すシーンには、「服」という記号からいろいろなことを想起させられ印象的でした。私も久しぶりに服でも買いに行こうっと。 【彦馬】さん [映画館(字幕)] 8点(2005-06-22 17:17:39) |