1.《ネタバレ》 私は未見ですが、黒沢清が撮った『降霊』は本作のリメイクだそうです。『降霊』はホラーですが、本家はホラー的な雰囲気はありますが非常に良質のサスペンスです。名舞台女優でめったに映画出演しなかったキム・スタンレーが霊媒で、気が弱く優しい夫をリチャード・アッテンボローが演じているのですが、二人とも実に見応えあるいい演技ですね。降霊会を開いている自宅を外から見せる映像がいずれも低い位置から仰ぎ見るショットなのですが、そこは名作ホラー『回転』を思い出させてくれます。 スタンレーは自分の霊能力を世間に知らしめたくて、嫌がる夫をまきこんで金持ちの女児を誘拐します。どうやら彼女の霊能力とは子供を死産してしまったトラウマが原因の一種の狂気らしくて、根が優しいアッテンボローは妻を愛するが故に誘拐の実行を助けてしまうのです。やらせで霊視をして事件が解決したように騙すはずだったのに、お約束の様に歯車が狂い始めて思わぬ展開になってゆくのはコーエン兄弟が好きなプロットですが、そこは60年代のイギリス映画、ピリピリした緊張感に満ちた展開を見せてくれます。 地下鉄を使った身代金の受け渡しシークエンスは、ドキュメンタリータッチでけっこうハラハラさせられました。ちょっと不満なのは、ラストでアッテンボローが誘拐した女児を殺害したのかどうか良く判らない描写になっていることで、殺していないようにも受け取れる撮り方なのです。まあこの辺はアメリカで公開することを考慮して、自主規制したみたいです。 こんな良作がこれほど無名だというのは、ちょっとサプライズですね。