28.《ネタバレ》 新進気鋭の若手カメラマンとして東京で充実した日々を送る早川猛。彼の兄で、田舎で父が経営するガソリンスタンドを継いだ早川稔。才能に溢れ都会で洗練された生活を過ごし女にもモテる弟と、田舎で地味な生活を送り真面目で大人しく女にも縁がない兄。そんな対照的な早川兄弟は、ある日、実家で行われた法事で久しぶりの再会を果たす。子供のころからずっと仲の良かった二人は、長い月日など感じさせないほど自然に話せるようになるのだった。だが、そんな二人の関係は、ガソリンスタンドで働く幼馴染の女性川端智恵子を巡り、揺れ始める。易々と彼女の好意を手に入れる弟と、彼女に恋心を抱きながらもただ見つめることしか出来ない兄。危うい関係で繋がった三人は、かつての思い出の地である山の中の渓流へと出かけることに。そして、そこで事件が起きてしまう――。古いつり橋の上から智恵子が転落し呆気なく亡くなってしまったのだ。しかも、その場には兄の稔がいた。当初はバランスを崩した彼女が一人で転落した事故として扱われていたが、その後驚きの展開を見せるのだった。なんと兄の稔が自ら突き落としたと自白し、そのまま殺人容疑で逮捕されたのだ。果たしてそのつり橋の上で何があったのか?やがて始まった裁判で、仲の良かったはずの兄弟が抱えていた闇が明らかとなる……。一人の女性を巡り、徐々に崩れてゆくそんな兄と弟を終始淡々と見つめた法廷劇。この監督の映画は今回初めて観ましたが、これがなかなか見応えのあるヒューマン・ドラマの良品でありました。とにかく、この監督の心理描写のきめ細やかさには舌を巻く。価値観の全く違う対照的な兄弟のそれぞれの思いが次第にすれ違ってゆく過程などなんとも繊細で、この二人の揺れ動く微妙な関係性に最後まで目が離せませんでした。特に殺人容疑で捕まる兄の人物造形は非常にリアル。監督は女性ということですが、こんなにもモテない男の心理が分かるなんて凄いですね。ほんのちょい役の登場人物までちゃんと血の通った人間として感じさせるところなどもホント巧い。そして「ゆれる」というシンプルで印象的なタイトルが示す通り、彼らは皆、最後までずっと揺れ動く。あの時ああしていれば、この時こうしとけば…。きっと何処にも正解などないのだろうけれど、人間は誰しもその時々の決断によって人生が決まってしまう。その現実の切なさに翻弄される二人の兄弟には、観ていて心揺さぶられずにはいられない。二人を熱演したオダギリジョーも香川照之も非常に嵌まり役で素晴らしかった。三島由紀夫賞の候補にもなった、監督自身による原作本も今回購入済みなのでまた楽しみに読もうと思います。 【かたゆき】さん [DVD(邦画)] 8点(2021-08-28 01:39:58) |
27.《ネタバレ》 猛が取り戻そうとした兄とは、結局猛自身が勝手に作り上げた虚像だったのではないか。 そのことに勝手に腹を立て、法廷で自分が真実と思い込んでいる吊り橋での出来事を証言したのではないか。 兄のためではなく、あくまで自分自身のために。 7年の空白の後も、猛に変化があったとは思えない。 母が死ぬ前もきっと、自分以外のことは彼にとっては他人事だったのではないか。 この映画で「ゆれる」のは、他ならぬ観ている我々の心ではなかったか? お前も猛と同じ生き方をしてはいないか?と。 とにかく俳優陣の演技が見応えがあった。 オダギリと香川照之はもちろん、伊武雅刀と蟹江敬三の凄みは流石。 そしてまだ端役の新井君。役者としては素晴らしいと感じた。 音楽とカット割も素晴らしく、私が言うのは僭越だが、映画としての完成度が非常に高い。 いい映画を観た。 |
26.《ネタバレ》 橋もゆれる、心もゆれる、兄弟の関係もゆれて画面までゆれる・・・。 西川監督の作品を観たのはこの作品が初めてで、その後、「ディア・ドクター」「夢売るふたり」も観ましたが、人の心理の揺れる様を描かせたら、日本で西川監督の右に出る人はいないんじゃないでしょうか? そしてこの脚本をさらに輝かせたのが役者たちの演技力。特に主役の二人は、もう「すごい!」という言葉しか出てこないほどの名演でしたね。 不自然な点は多々あります。橋の上での、智恵子の稔に対する態度。猛のことで気持ちがイライラしていたとしても、30歳前の大人があのキレ方はないですよね。また、昨夜寝た幼なじみが死んたというのに、あの猛の冷めた落ち着き、なのに間違った記憶で兄を有罪にしてしまうなど、普通のドラマだとありえないこと。でも現実の世界では、そういう不自然がいくつも重なって成り立っています。多くの人が思う「普通はこうだよね」通りの描き方は、2時間ドラマにおまかせしましょう。 ひさしぶりに観返して、この作品に対する評価はさらにアップしました。脚本は一切の無駄がなく、「これ以上はない」というくらいの見事な映像表現など、そのレベルの高さは、他の映画作品とは次元が違うように思えました。おそらく、数十年後でも、その評価は変わらないのではないでしょうか。 【ramo】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2017-09-20 00:26:51) |
25.《ネタバレ》 兄弟の絆や確執以前に、智恵子の死を悲しむ者がいなくみえた事がすごく恐ろしい。家族ぐるみで付き合ってたうら若き乙女が一人急死したっていうのに、しかもタケルからしたら昨日抱き合い、その肌の温もりさえ残っている女。稔からすれば、ずっと思いを寄せていた女。智恵子の母親の冷め加減に至ってはもう論外だ。人一人の死を軽く扱ってたようにも見えなくなかった 殺人か事故死かって事より もっと悲しみがあってよいはずだったとか思ってしまう そのあたりがどうにも不自然だった。振り返ってみれば、例の吊り橋からの落下直後にしても彼らは救助に向かう姿勢など一個もなかったし。だから、繰り返して言ってみますが、タケルにしても稔にしても幼馴染みの彼女に対して愛情とか心配が無さ過ぎて ろくでもない兄弟に思えてしまった そんな成り行きからして兄弟愛など第三者からみて虚しい限りであった。だからと言ってコレ酷評したいのか と言えばそんな気さらさら無い。深く入り込める話だった だから、好きなのか嫌いなのかって そうね だから心はゆれる。 【3737】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2014-12-25 00:18:04) (良:2票) |
24.兄弟が最高の演技を魅せている。脚本も秀逸。 日本映画はこういった作品で海外と勝負するしかないと改めて感じました。 【Junker】さん [DVD(邦画)] 8点(2014-11-01 16:11:39) |
23.西川美和監督の代表作という事で今更ながら観賞。ある種独特の飄々としたローファイ感漂うタッチで綴られてはいるが、この女流監督が突き付けてくる提起はいつもながら舌を巻く程に鋭い。対照的な生き方をする主人公兄弟を通じて見えてくるもの。都会と田舎。モテと非モテ。優越感と劣等感。そして、抑圧と解放。一億総中流社会と言われる中でぼんやりとだが確かに存在している「格差」と、無配慮と誤解の積み重ねで瓦解へと至ってしまう「人間関係(血縁関係)の危うさ」。兄弟の葛藤はやがて観る側の感情をも巻き込んで不安定な吊り橋の様に“ゆれる”。最終的な結論を受け取り手に委ねる作風が賛否両論を呼んでしまう事も多いが、控え目ながらも確実に物事の核心を射抜いてくる彼女のスタンスが私は好きである。 【オルタナ野郎】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2014-01-08 21:03:05) (良:1票) |
22.《ネタバレ》 オダギリジョーは実生活じゃないかというくらいはまっていました。 特筆すべきは兄役の香川さん。 密かに想いを寄せていた女性に圧倒的に拒絶されるなんて空しくてやってられないと思います。 ましてそんなこと誰にも知られたくないのに検察官にまくしたてられるなんて・・・ 惨めだ。惨めすぎる。ある意味刑務所入っている以上の酷い仕打ちだ。 こんな内面を見事に演じていたと思います。 兄弟2人が対峙する無言の緊張感も半端なかったです。 とにかく人(男)の心にズケズケと入り込んでくる容赦ない作品でした。 真相はどうなんだ?という引っ張り方もうまかったと思います。 残念なのは検察官。どうしてもお笑いに見えてしまって・・・。 演技派のキャストで固めていただけにちょっと余計だったように思います。 【午の若丸】さん [DVD(邦画)] 8点(2013-12-23 18:23:24) (良:1票) |
21.《ネタバレ》 ○間の取り方が非常に心地よい映画だった。会話と会話の間や、映像で見せる場面など非常に凝った作りだと感じた。○内容については良くも悪くも色々分析してみたくなる内容。○そして、特に香川照之の存在感が尋常じゃなかった。一方で木村祐一は浮いていた。 【TOSHI】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-10-14 21:34:51) |
20.香川さんと真木よう子さん目当てで何の情報ももたず観たのですが、良かった。兄弟だからこその微妙な関係性、緊張感がこっちにもビンビン響いてきました。 【movie海馬】さん [地上波(邦画)] 8点(2012-07-30 16:28:25) |
19.まず、映像が美しい。 この映像、演出は女性監督だから撮れたものだと思う。 オダギリジョーは本当に役にハマっていて、違和感がなかった。 1つの事件から起こる、人間の心の曖昧な部分をよく描いている映画だと思う。 |
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18.《ネタバレ》 映画全体が二重構造になってる。物語は終始、弟目線で進んでいく。自由奔放な弟がすべてを犠牲にしてきた兄に対して抱く恐れが、事件の解釈を二転三転させる。しかし、物語の最後で、弟は兄弟の「絆」を再発見し、それを取り戻そうと走り、叫ぶ。これだけなら普通の映画。だけど、この映画の面白いところは、「自分にはないもの」をすべて持ち、自分からすべてを奪った弟に対する兄による「復讐」の物語でもあるところだ。逮捕後の弟との面会のシーンから兄の復讐は始まり、弟は自分の知っている(そして自分に都合のよかった)兄の態度の豹変に戸惑う。そんな兄にとっては、7年間の刑期なんてことよりも、弟を揺さぶり、その心に消えない傷を植え付けることのほうが大事だったように思う。そして、その「復讐」は、あのバスに乗ることによって完了する。「絆」の再生の物語と「復讐」の物語。だから、ラストはあれしかなかった。あの笑顔も、弟目線と兄目線ではまったく意味が異なる。とても質の高い心理劇でした。ただ、残念だったのは、裁判のシーンが冗長でだれてしまったところと、クレジットで流れる曲。圧倒的に兄の心理に感情移入しちゃってた私は、あのクレジットで流れるオシャレ風な(弟=オダジョー的な?)楽曲に余韻を奪われてしまいました。あそこは静かなインストであってほしかった。 【ころりさん】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-01-20 05:14:23) (良:1票)(笑:1票) |
17.そう。結局兄香川照之は自らの希望を叶えたのだ。弟オダギリジョーは兄の化けの皮をはがしたいと思ってたのに、まんまと術中にはめられたのだ。ほんとうの意味の自由を得て兄はこれから幸せな人生を送るだろう。そう解釈しました。 【とと】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2009-09-18 12:40:17) |
16.重く、痛く、辛い。人の心はかくも弱い・・・的な映画でした。二度はみたくない。けど、また見てしまうかも。オダジョーみたいな顔が良くて自由で要領の良い弟は絶対もちたくないな。兄ちゃんドンマイ。 【すべから】さん [DVD(邦画)] 8点(2008-10-20 17:45:57) |
15.《ネタバレ》 2回目見ました。 やはり不満なく、おもしろかった。 主役2人の演技は素晴らしかった。 何よりこの映画のすぐれた点は、それぞれがそれぞれに考えさせられる(考えてしまう)作品になっている点だ。 普段それほど関係を気にしない兄弟、特に大人になればただの人と人、という関係を、ゆさぶり、ゆさぶられていく。 最後の方は少し作りが雑になってしまっている気はする。 もう少し細かく丁寧に時を進めてもいい気がした。 7年ぶりに兄が出てきたときのあの笑顔の意味だけはどう解釈するか分からなかった。 弟に様々な心境の変化を感じさせることはあったが、それが何もせず、何もしゃべらず伝わるわけはない。 7年という歳月は長いし、自分をこの状況に追いやった弟を(仮にそれがどこかで兄の意図的であったとしても)顔を見た瞬間に笑顔で迎えるのは無理があるように感じた。 【コショリン】さん [DVD(邦画)] 8点(2008-10-08 00:25:00) |
14.《ネタバレ》 西川美和監督、凄い実力です。 師匠の是枝裕和監督を既に抜いていますね。 しかしながら、純粋に脚本としてみるとシックリこない部分があります。 結局、事実としては「手を差し伸べたが落ちてしまった」だと思われますが(兄の手の傷から)、それに対し、法廷で最終的に「突き落とした」と偽証した弟を、あのバス停で笑顔で迎えるには、さすがに無理があります。 ただし、もしかしたら、兄は弟を心理的に揺さぶることによって、何かを弟に伝え、そして弟はそれをきっかけに兄を理解した。 その満足の結果として、あの笑顔がもれた。 そう考えることもできます。 ただ、これは前述した通り、7年もの刑期を負わされた兄が、そこまで弟を良心的に解釈するには無理があり、説得力を欠くと個人的に感じました。 しかし、ここまで観た後に、考えさせられる時点で、西川監督に見事に翻弄されているのです。 そういう意味で、脚本的には少々無理があるものの、西川監督の並々ならぬ実力に感服しました。 この女流監督の今後の活躍に目がはなせませんね。 【にじばぶ】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2008-02-07 19:02:28) (良:1票) |
13.《ネタバレ》 突然キレるヒトが多い映画だなぁ。でもそのキレっぷりがさすが名優です。実際は・・・遺伝でこんなふうになるのかな環境要因かな。刑務所の面会室のシーンが、コマ割からセリフ、息づかいまで緊張してドキドキした。逃げるしかないけど自由な人生、土地や家屋はあるけど押し付けられた人生。どっちかっつーと、狭い世界の中で生きてきた兄の方が、やっぱりしんどそうだな。 【●えすかるご●】さん [DVD(字幕なし「原語」)] 8点(2008-01-22 22:09:58) |
12.役者、脚本、撮り方、どれも私の好みでした。いろいろと含みを持たせて解釈の幅が広いのも好きです。それだけに最後のオダジョーの独白は要らなかった。 父と叔父の間にも同じような確執が見えたり、魚の目とか、細かい演出も良かった。 【Balrog】さん [DVD(字幕)] 8点(2008-01-21 00:42:42) |
11.《ネタバレ》 香川照之の演技が凄い。表情や後姿で語ってる。見終わった後にあれこれ色々考えてしまいます。最後はバスに乗ってたような気がします。 【osamurai】さん [DVD(邦画)] 8点(2007-12-10 01:06:21) |
10.《ネタバレ》 良い噂は耳にしていましたが、納得の出来栄え。確かに素晴らしい。役者はみな上手いし、脚本、演出共に申し分ありません。テーマも心に沁みます。山奥の吊り橋で起きた転落事故。それは本当に事故なのか。真相を知るのは当事者である兄と目撃者の弟だけ。当然事故で処理されるはずの事案。しかし兄は殺人であると自供します。ここから真相は事件と事故の間を揺れ動きます。同時に兄と弟、そして彼らの周りの人たちの心をも揺らします。各人の心の内を慮かることが本作の楽しみ方。とくに事故時の兄の心情が最も興味深い。高所の吊り橋、川の音、空気、風、それまで彼が歩んできた人生、もちろん表情や筋肉の動きに至るまで、提供される全ての情報を基にして彼の心情を読み取ります。ただしあくまで推測。彼の心情は彼にしか分からない。絶対に。“彼はどう思ったか”は“自分ならどう思うか”と同義。彼を通じて観客は自分自身を量ることになります。模範解答は“事故”だと思います。でも判決どおりの“殺人”でも間違いだとは思いません。真実はあやふやなものです。何故弟の偽証を兄は黙って受け入れたのか。ラストの兄の笑顔の意味は?最後まで観客自身への問いかけは続きます。とても深い映画。自分の文章力ではそれを伝えることは出来ません。どうぞ直接ご覧になって、自分自身と向き合ってみることをオススメします。 【目隠シスト】さん [DVD(邦画)] 8点(2007-11-11 19:50:18) (良:1票) |
9.《ネタバレ》 兄は智恵子を殺したのか、事故だったのか。 結局明確な答えは出していないと思える。 裁判が進み自分の証言が受け入れられつつあり、この裁判は自分の勝ちと信じ始めた兄は無罪放免となって家に戻った後のことをあれこれ浮かれて弟に接見中に話す。 これは自分のうそが通って無罪になりそうだと浮かれていたのかそれとも本当にやってないからほっとして浮かれたのか。 裁判の最後、弟の証言で兄の実刑が確定したのだが、あれが真実を語ったのかそれとも偽証だったのか。 兄は智恵子に好意を寄せていた。 その智恵子は弟に好意を、そして弟を通して東京にあこがれていた。 事件の前夜弟は智恵子の部屋に上がりこみ関係する。 夜遅く帰り兄に居酒屋で智恵子と食事し智恵子が以外に酒がいける口だなどとうそをつく。 兄は智恵子と弟の間で何かがあったと感じ取ったはずだ。 そして翌日事件は発生した。 後に智恵子が酒が飲めないことを父親から聞いた弟は当然それを知っていた兄があの時何も言わなかったことに恐怖を覚えたろう。 その描写がうまい。 橋のゆれ、心のゆれ、なにもかもがゆれている。 役者の演技がわざとらしくなくうまい。 素直に映画に入り込めた。 演出も良い。 【称えよ鉄兜】さん [DVD(邦画)] 8点(2007-09-14 04:38:50) |