1.《ネタバレ》 まず、伝承でしか語られないテムジン=チンギスハーンの物語を、血肉の備わったリアルさで現代の私たちの前に見せてくれたことに拍手を送りたい。父イェスゲイの毒殺や嫁選びなど、遊牧民特有の風俗や習慣があってはじめて、原作・元朝秘史が語るひとつひとつの出来事が起こりえたのだと、素直に納得できる出来映えだった。族長が強いうちは結束が固いが、弱ったり信頼を損なうと配下の者に見限られ、別のリーダーのもとへとあっさり去ってしまう淡泊さ。また、盟友となった相手とも仲違いをし、戦をする不合理さ。弱い部族を襲い、殺し合い略奪することなど、私たちの常識に照らし合わせればあまりにも不可解で悲惨だ。殺さなければ殺される、生きることが難しいくらいの過酷な世界。なんでこんなに襲撃・戦さ、殺し合いばかり見せるのか、理解しにくいくらいだ。けれどその疑問をボルテに語らせ、テムジンが答える。それこそがこの映画の要の部分で、チンギスハーン一人の物語にとどまらずに、あの時代に生きた遊牧民全体を語る深みにまで到達できたと思う。景色は雄大で本当に美しかったけど、ロケーションとしては地元モンゴルで撮影した「蒼き狼」のほうがリアルさで上かな。主役浅野とボルテ役の女優の目で語る演技にはとても惹きつけられた。ジャムカはエキセントリックなパンク野郎で、ちょっと笑える。捕虜時代や衣装など、エンタメ性を考慮したフィクションなどもあったんだろうけど上手に処理している。戦闘シーンはつらいけど、もう一度見てもいいな。