1.《ネタバレ》 カンヌのパルムドール受賞作品はさすがに凄い作品だ。こんな映画を過去に観たこともない。既存の映画の概念を完全に崩しているのではないだろうか。この映画を撮れる監督は現代には存在しないのではないかというほどの凄まじい才能を感じられる。
ストーリーははっきり言って「どうでもいい」ものであり、高い技術が使われているわけでもない。
ルーマニア人が金も掛けずに撮ったつまらない映画とジャッジする人がいてもおかしくはないが、音楽を一切用いず、長回しで撮り続けることにより、その場にいるようなリアリティ、臨場感を産み出している。
リアリティだけではなく、微妙な空気感の演出に上手さを感じられる。
「医者が帰ったあとのホテルに残された二人の重苦しい空気感」「恋人の母親の誕生日に呼ばれた際、はしゃぐ身内に囲まれたどうしようもない孤独感や、堪えられないほど苦しい状況下にあるのにそれが分かってもらえないという切なさ」などの演出が尋常ではない。
ストーリーが大したことないのに、まったく飽きることの無い映画だ。
ストーリーはどうでもいいと思っているが、監督が伝えたいメッセージは何かしら感じられた。
妊娠した友人を見て「こいつはバカじゃないのか!」と思う観客がほとんどだろう。
自分のせいなのに、何もやらず、場を乱すことばかり行い、肝心なアイテムも忘れるという、かなりいい加減な女性だ。
しかし、恋人宅で主人公と恋人との会話を聞くと、妊娠した女性とそれほど変わりがないことに気付く。
そして、胎児を捨てに行く際の彼女の挙動不審っぷりをみると、妊娠した女性と全く変わりがないと確信できる。
「人間はパニックに陥ると訳の分からない行動にでる」「人間はそれほど強いわけでも、偉いわけでもない」ということを通して、“人間の本質的な部分”を描きたかったのではないかと思っている。
妊娠した女性は単なるバカではなく、いわば我々と同類だ。
医者ももちろん同類だ。偉そうなことばかり言っているが、その根は単なるエロオヤジであり、IDもフロントに置き忘れるという間抜けなところもある。
このオヤジも実は内心パニックで、一目散にホテルから逃げ出したのではないか。
また、主人公と妊娠した女性は、恐らくいつまでも親友でいられるのではないかと感じさせたラストでもあった。
あの終わり方を見て、この監督はすべて計算でやっていると確信できた。