7.《ネタバレ》 ビジュアルは文句なく、ストーリーも良く、しかも何かを考えさせるようになっており、非常に満足できる作品に仕上がっている。
世界や海外を意識したためか、自分の追求するスタイルを少々捨ててはいるが、自分のコアな部分はきちんと投影されている点は素晴らしい。
自分の世界観を分かりやすく伝えるのもプロの監督の仕事だ。
あまり彼の作品は観たことはないが、やはり押井監督はプロフェッショナルな監督だと感じさせる。
チカラを相当に注いだと思われるビジュアル面では他の追随を許さない圧倒的な美しさには驚かされる。
単に美しいだけではなく、空や雲の空気感・飛んでいるような感覚までをも描きこもうとしている。
ある意味では“芸術”ともいえる領域だ。
キルドレについては、現代の若者をイメージしているのだろうか。
空の多彩な表情とは変わって、能面のような表情が実にいいコントラストになっている。
感情的にならないドライな若者たちを非難しているようには感じない。
現代の若者を上手く捉えており、彼らに非常に分かりやすくメッセージを伝えたと思う。
本作ではキルドレの代わりがいくらでもいるという設定になっているが、現代の若者たちに対して「それでいいのか?」と問うているのではないか。
「オマエらは人形じゃない」「代わりなんていない」「この世界はゲームじゃない」ということを監督は伝えたがっているように感じた。
また、描くことが難解な微妙な部分を上手く演出している点を評価したい。
冷めているようで、ほんの少し熱い部分もある。
感情を表に出さないが、内面には秘めたる部分もある。
諦めているようで、何かを変えようともがいている部分もある。
逃げているようで、立ち向かおうとしている部分もある。
このような微妙な感覚を上手く演出しているのはプロの仕事だ。
菊地凛子の起用の成否の判断は難しいが、恐らく押井監督はギャンブルに出たのではないか。
彼女よりも上手い声優はいくらでもいたと思うが、彼女の下手くそさ(しっくりこない違和感)が良い意味で個性的な味わいが出たような気がした。
栗山千明のように悪くなくても印象の残らないよりも、冒険を犯して印象に残すということに主眼を置いて勝負したと思われる。
菊地凛子は好きではないが、そういう意味においては彼女の起用は当たった。