2.《ネタバレ》 やはり、リドリー・スコット監督は本物の監督だ。久々に“映画”を観たという充実感を味わうことができた。リアリティがあり、迫力があり、緊張感があり、全く先が読めないストーリーには引き込まされる。
ストーリーが面白いと感じさせるのは、フェリスとそれぞれの登場人物との関係が一蓮托生ではなくて、極めて脆い側面をもつ点だ。
まず、フェリスとホフマンの関係が面白く描かれている。現場を知らない上に傲慢なホフマンが、まさに「アメリカ」を体現しているかのようだ。上から目線で、ヨルダン情報局のハニに対して彼のスパイを独占したいという強欲さを押し出している。現場の作戦や風習を無視して、自己の都合と自己の利益のために勝手に動くことによって、全てを乱している原因になっているということに気付いていない。ホフマンの強引さに、フェリスが振り回されており、その挙句にフェリスを助けることもできていないというところが皮肉的だ。
そして、フェリスとハニとの関係も非常に微妙に描かれている。お互いに信頼関係を重視しているが、“嘘”というほころびがラストの悲劇的な展開を生んでしまっている。また、フェリスのアメリカ的ではない“正直さ”もまた一つの衝撃的なラストを生んでいる。彼らの関係が、アメリカと中東との関係の微妙さをそのまま描かれている。
最後に、フェリスと看護師との関係にも見所がある。周囲からは奇異な目で見られている二人であり、結局は結ばれることはなかった。アメリカと中東の国々が仲良くしたいのだが、それが簡単には上手くいかない。環境がそれを困難にしていることを描いているようだ。
さらに、CIAとテロリストグループとの間で、荒唐無稽で非現実的な化かし合いが繰り広げられるのではないという点も面白い。フェリスが仕掛ける“嘘”も、ラストの“嘘”もリアリティが保たれたものであり、極めてシンプルなものとなっている。
派手さはないものの、この丁寧で絶妙なリアリティが実に心地よい。フェリスの嘘も、ホフマンの嘘も通じず、誰の嘘が勝ったのかを考えると、なかなか痛快な作りとなっている。
中東においてはアメリカ的な手法や、近代的な装置や設備が通じないということを明らかにすることによって、アメリカという国ややり方を皮肉っているようだ。
アメリカ万歳映画ならばヒットしただろうが、この内容ならば、アメリカ人が本作を無視したというのも分かる。