1.上映時間64分の濃密さ。
列車の座席で隣り合ったマカリオ(リカルド・トレパ)と婦人(レオノール・シルヴェイラ)が語り合うシーンの一定した構図によって、語りが進むにつれ婦人が送る視線の動きが微妙に変化していく様がうかがえるなど、芸が細かい。同じく定点から捉えられたリスボンの丘の美しい遠景ショットの反復が、鐘の音が、不可逆的な時間の推移を印象づける。
そして、通りを挟んで向き合う窓と窓の縦構図の中にルイザ(カタリナ・ヴァレンシュタイン)を妖しく浮かびあがらせていくフレーム造形の妙。
顔の右半分を隠すブロンド、正面を遮る扇、紗のカーテン。そしてカメラは彼女を主に右横からのショットあるいはロングショットで捉えるため、彼女の相貌はなかなか全体像を表さない。
玄関階段での振り返り、右足を浮かせた抱擁のショット、足を開いてソファに座り込む彼女のラストのショットまで、少ない出番でありながら醸しだされる謎めいた雰囲気は絶品である。
公証人の豪邸内の重厚な美術と照明設計。対する、洋服ダンスとベッドのみが置かれた安アパートの深い陰影など、スタッフワークも当然のごとく充実している。