11.「2年半以内に、94人の65歳の男性を期日通りに殺害せよ」
と、ナチスの残党のマッドサイエンティストが命令する。
そこには壮大で恐るべき計画が秘密裏に進行しており、その陰謀を年老いたナチスハンターが追う。
非常に濃密な面白味を孕んだSF映画であり、サスペンス映画だったと思う。
余分に派手な演出を控えて、鈍く抑えた演出が殊更に見え隠れする恐怖とおぞましさを煽っている。
今でこそ“クローン”なんて題材は様々な作品で使い古されているけれど、1978年当時としてはとても前衛的で、ショッキングだったろうと思う。
今観ても、描かれる陰謀の真相が明らかになるシーンでは、身震いを覚える程の衝撃を感じたのだから、当時の観客にとっては尚更だったろう。
故に賛否両論も激しく、そのことが日本未公開の所以だったのかもしれない。
キャストにおいては、やはりグレゴリー・ペックの演技が圧倒的だった。
あらゆる名作で好漢を演じ続けてきた大スターが、よくもまあこれ程まで狂気的な科学者の役を引き受けたものだ、とまず思った。
そしてそのパフォーマンスは凄まじく、この俳優が本当にグレゴリー・ペックなのかと一瞬疑ってしまったほどだった。
原作の面白さに卓越した映画術が合致した完成度の高い「問題作」だと思う。
ラストシーン、残った“少年”の言葉と眼差しが、追い討ちをかけるようにおぞましい余韻を残す。
そう、94人分の可能性を携えて……。