3.「セックスと嘘とビデオテープ(1989)」で鮮烈なデビューを果たし、そのままハリウッドの頂点まで駆け上がった俊英スティーヴン・ソダーバーグ。
群雄割拠のハリウッドの中でも一際その天才ぶりを発揮し続けてきた映画監督の“一応の”「引退作品」という名目の今作は、集大成と呼ぶに相応しい作品精度の高さを感じると同時に、デビュー作との不思議なリンクも感じる映画に仕上がっている。
「サイド・エフェクト」という名のこの映画は、現代人の生活の中ではもはや切り離すことが出来ない「薬」にまつわる“あらゆる意味”での「サイド・エフェクト=副作用」を浮き彫りにする。
「薬」とそれに伴う「副作用」をスケープゴートにして描き出されるものは、現代社会そのものの病理性と、そこに救う人々の屈折した精神だった。
映画の序盤は、映し出される映画の世界観がなんだか薄ぼんやりとしている印象を受ける。
一体に何を主軸に描こうとしているのか掴みきれず、そのフォーカスの合わない感じに、居心地の悪さを覚えた。
しかし、それがある展開に伴い突如として転じる。みるみるフォーカスが合っていき、核心にピントが合っていく。
「偽り」を嫌う人は多い。何も偽ることなく生きていけるのであれば、それにこしたことはない。ただし、そういうわけにもいかないのが人生というもの。
自覚・無自覚はあるにせよ、誰だって、多かれ少なかれ何かを偽って生きているのではないかと思う。
もはや現代社会においては、それらは一方的に否定することすら不可能だ。
それこそ、常にセルフカウンセリングをして、理想と現実に対して折り合いをつけていくしかないのだろう。
そういう、この世界の“日常”に蔓延する思惑と疑心、野心と欲望、その諸々の病理渦巻く上質なサスペンスだと思う。
キーパーソンを演じるキャサリン・ゼタ=ジョーンズの美貌と艶が最高。
ルーニー・マーラの悪女ぶりも恐ろしい。
彼女たちに人生を揺さぶられまくるジュード・ロウとチャニング・テイタムに痛く同情してしまうと共に、男など本当に無力だなと思えてならなかった。
スティーヴン・ソダーバーグの卓越した映画術に感嘆した。この映画監督の才能を再認識し、その映画世界に陶酔した。
これが最後?信じないけどね。