1.《ネタバレ》 殺人も強盗も何でもする犯罪グループの5人の男を父親として育てられたファイ。
それぞれの得意分野の犯罪スキルを教えられて育った17歳。
ある日を境に、ファイは自分の過酷な運命と直面し、父親たちと戦うことになる。
まずこの設定に惹かれました。
ファイの運命は余りに残酷です。
自分が誘拐された子供だったことを知り、よりによって初めての殺人が実の父親だったなんて。
ソクテがそれを知りながら命じたことや、両親が立ち退かなかった理由が自分を待っていたから、なんて知ったら、そりゃもう大打撃だし復讐もしたくなります。
ファイにとっては、知ってるのに黙ってた他の父親たちも同罪です。
ただ、そうだとしても、15年間それなりに愛情かけて育ててくれた父親たちへの葛藤も描いて欲しかったです。
騙された!酷すぎる!殺す!って展開早いです。
冒頭で、ソクテをアボジ(お父さん)、他の4人はアッパ(バパ)と呼んでることから、ファイにとってソクテは逆らうことのできない絶対的な存在だとわかります。
この緊張した表情、無邪気な子供らしい部分と真実を知ってからの顔つき、アクションすべて、ファイ役のジング君の演技力が光ります。当時15歳。天才です。
ソクテが見ていた怪物とファイが見ていた怪物は、不安と恐怖というのは共通でも、その中身は別物だと思います。
ソクテが見てたのは、自分の中にある汚い部分を知っていて完全に悪に引き込もうとする怪物。
キリスト教の養護院で育っているので、罪を犯せば神様から罰を与えられるという恐怖でもあります。
引いては神への恐れかもしれません。
だから必死で祈ったのに怪物は消えない。神は救ってくれなかった。
もっと汚れて自分が怪物になることで怪物を消したと思っていますが、実際はソクテは怪物に飲み込まれてしまったのです。
ヒョンテクへの執拗な残酷な仕打ちも、彼が神の化身のような人だからです。
どんなに酷いことをしても彼は信仰により自分を赦しました。
ソクテは、いっそ罵倒されたほうが救われたような気がします。
ファイが見る怪物を自分と同じ類のものだと勘違いしているので、ファイは自分の側の人間だ、怪物になることがファイを救うのだと本気で思っていたのでしょう。
そして、そうなった時完全にファイは自分の物となると。
恐ろしいほどの執着です。
ヨンジュへの態度からも、ソクテは支配と暴力でしか愛情表現ができないのだと思います。
キム・ユンスクが圧巻の存在感です。
感情の読み取れない表情や冷酷そのものに見える目つきで、誰も逆らえないカリスマ性に説得力がありました。
ファイが見る怪物は、幼い頃は漠然とした不安や恐怖の象徴だったかもしれません。
長じては、悪や罪など、自分の中の善や良心を消し去ろうとする恐ろしい物。
それが具体化してソクテとなったとき、ファイは怪物と戦う決意を持ち怪物を消し去りました。
だから原題の「ファイ・怪物を飲み込んだ子」の通りなのですが、私は邦題を見てこの作品を見る気になったので、タイトルは変えて良かったと思います。
エンドロールのファイの絵は、父親たちとの穏やかな思い出や明るい願望に満ちていて切ないです。
ギテの絵を見たときは涙が出ました。
ファイを溺愛していたギテ。最後まで本当のパパみたいだったのに。
ファイは、この先どんな風に生きていくのか。
できれば、ジンソンが用意してくれたパスポートを使って大学へ行き、画家になってほしいと思いますが、そんな普通の暮らしが可能かどうか・・・。
エディプスコンプレックスと、人間の恐怖に対する神からの命題。
残酷だけど、とても意味深い作品でした。
見て良かったです。