1.《ネタバレ》 この映画は実に全編中3割が当時の資料映像だ。だが当時のチリを知る人でもなければ観ている間はそれと気付かない。「史実」部分と映画部分とをうまくつなぐ手法として、撮影には古い日本製カメラが使われている。つまり古い資料映像に合わせて映画部分も古い画面にしてしまったわけ。この古~いチカチカ画面の効果がけっこうすごくて、わりと呑気な日常の中に軍事政権の弾圧が踏み込んでくる切迫感がある。なぜなら「弾圧」場面は本物だからだ。戦車も本物なら本当に警棒で人が殴られているし実弾が発射されている。
その過酷な現実に主人公は「明るく楽しい反政府CM」で対抗する。そのCMもやはり本物。当時の政治家も登場するし中には映画パートにまで出演している人もいる。調度品も当然当時の品物が揃えられていて、丸いブラウン管TV、ごっついビデオデッキ、最新家電の電子レンジが主役顔で強調されているのが楽しい。
この映画のストーリーはチリの現実の政治を扱ったものなので一筋縄ではいかない。単に「正しい側」が巨悪に対して勇敢に戦う、ということだけではなく、その葛藤や、結果として今のチリに何がもたらされたのかまでを含んだ複雑なメッセージになっている。一国の歴史の一場面を描いた作品だが、込められたメッセージは時空を越えている。それが映像表現として具体的に時空を越えているのが画期的だ。
というわけでなかなか素晴らしい作品なのだが、正直とっつきは悪いと思う。ドキュメンタリー風にBGMがほとんどなく(だからCMテーマソングが耳に残るのだが)、ホームビデオみたいに雑に撮ってつないだだけに見えるシーンも多い。役者の演技も抑えられていて説明は最小限。だから出演者もみんな「資料映像」の現実の人間に見えてくる。この映画はそのハードルを超えて観ようとすれば色んな所に面白さを感じるし現実の複雑さも感じられる。何度も観返す価値がある映画だ。