1.《ネタバレ》 【以下、スーパーネタバレです】
まだ人々の記憶に新しい、2013年ボストンマラソンで起こった爆弾テロ。
当時、口の悪いマスコミに「戦争を仕掛けようとしたオバマ政権の自作自演」と揶揄された事件だ。
本作の主人公は、テロに巻き込まれて両足切断の憂き目に合ったアメリカの一青年。
それを「アメリカの良心」、ジェイク・ギレンホールが演じる。
これで評価のハードルを上げるなと言うのは到底無理な話。
結論としては、小粒ながらも辛口で、複雑な評価をされるであろう作品だった。
主人公の兄ちゃんはアメリカ中の一般家庭にそれこそ掃いて捨てる位に沢山居そうな普通の人。
時間にルーズでビール好き、地元のプロ野球チームの応援が最優先な、お調子物で少々頼りない奴だ。
こんな兄ちゃんが別れた元カノとよりを戻すべく、彼女が出場するボストンマラソンを応援するために駆けつけた所でテロに巻き込まれてしまう。
ここは気の毒としか言い様が無い。
本作の本境地はまさにここから。
兄ちゃんが病院に担ぎ込まれてマスコミが騒ぎ始めてから、兄ちゃんの家族模様が描写されるが、これがまた俗世間的で嫌な奴らばかりなのだ。
図らずも有名になってしまった事に皆感覚が麻痺してしまったのか、兄ちゃん本人の事はどちらかというと二の次で、
自宅をバリアフリーに改装する等の描写は皆無、「エレベーターのある家に越せばよい」と言う台詞まで飛び出す始末。
降って湧いた様な状況の中で唯一まともなのは、自分が出場するマラソンを応援したせいで兄ちゃんの怪我を自分のせいだと責める元カノだけという有様。
この家族は終盤まで特に行動を改める事も無く、お母ちゃんは酒とタバコを止められずにまともな事を言う元カノを邪険に扱う始末。
兄ちゃんも兄ちゃんで、最後の最後まで家族・マスコミにヒーローと祭り上げられるのは苦痛である事をイジイジと言わず、
リハビリもサボって昼間からビールを飲み、挙句の果てにはラリって車の運転までする始末。
この駄目さ加減、ジェイク・ギレンホールは本当に上手く演じている。
(ちなみにアクセルとブレーキは同じくラリった友人が手で操作って・・・)
おいおい待てよ、と言う間も無く、この兄ちゃん、真面目に自分に尽くしてくれる元カノの態度に甘えて「する事」はしっかり「して」いて、
元カノが妊娠した事を告白しても「俺には無理だぁ!」とガキの様に拒否するのだ。
(このシーンでの主演二人の演技は見事)
この文章だけ読むととんでもない奴だが、終盤、爆弾テロの現場で兄ちゃんを真っ先に救護してくれた人の身の上が判っていく中で、
まるでギアを上げていくかの様にこの映画の「格」が短時間でメキメキと音を立てて変化して行く。
この主人公の「改心」するタイミングが物語終盤であるのが、本作を陳腐なお涙頂戴ものにしておらずに上手い構成だと思う。
改心した主人公が、一旦は愛想を付かして出て行った元カノの所に懸命なリハビリの成果も有り義足で向かい、「愛してる」と告げる。
これに対する元カノの台詞を「私も」では無く『良かった』とした事で、エンディングが締まったと思う。
何故、爆弾テロが起こったのか?
何故、兄ちゃんの所に沢山の人が「私の息子も戦争で・・・云々」「9/11にWTCの○○階に居て・・・云々」等、話し掛けたがるのか?
ここを表層的になぞる事しか出来ないのは止むを得ないが、「病めるアメリカ」の異なる断面を見させてもらった様に思う。
いや~、それにしても主人公の元カノを演じたタチアナ・マスラニーという女優さん、本作で初めて彼女の事を知りましたが、マジで惚れましたね。
絶世の美女でも無く、超絶的なプロポーションを持っている訳でもない、
どこにでも居そうな可愛い女の子の様でいて、強い意志を感じられる視線がとにかく良い。
Webで調べたら実はかなりの演技派だそうで、これから意識して彼女の作品を観てみようと思った次第。
彼女の発見が一番の収穫でした。