5.《ネタバレ》 映画館で映画を観るメリットのひとつは作品世界に没入しやすいことだが、本作においても終始主人公・三上の生き様を追ううちに、自然に彼に感情移入していることに気づく。
殺人犯として服役していた刑務所を出所するところから始まる物語だが、「受刑者の社会復帰」という通常では垣間見えない視点をとおして、人間と社会を考えさせる秀作だった。
特に役所広司の演技は秀逸で、一本気で喧嘩っ早い反面、どこか愛嬌のある三上という男を表情豊かに演じている。
長澤まさみ演じるTVプロデューサーも時折印象的なセリフを吐く。
「レールの上を歩いてる私たちも、ちっとも幸せだと感じてないから、はみ出た人を許せないんだよね」
そして三上の喧嘩の撮影中怖くなって逃げる若手ディレクターに「撮らないんなら喧嘩を止めろ。止めないのなら、撮って人に伝えろ!」と凄む。
この一件から、ディレクターは本気になって三上と向き合うことになる。
三上が社会復帰のために、失効した運転免許の再取得に動き出すシークエンスは、本作の肝にあたる。
こうした三上の努力や周囲の助力を知ったあとだけに、ラスト近く、三上のアパートに駆けつけ号泣するディレクターと一緒に、観客である自分の目頭も熱くなっていることに気づく。
そしてラスト、三上に関係した人々が集まるアパートから青空へと画面がパンし、ここで初めてタイトルが浮かび上がる。
「大事なのは誰かとつながりを持って、社会から孤立しないことです」
最初にケースワーカーが三上にかけた言葉を思い出しながら、タイトルの意味をずっと考えていた。
そして観終わった今もずっと考えている。こうした映画こそ佳作と呼んでいいと思う。