3.《ネタバレ》 世界の三大喜劇王と言われる、チャールズ・チャップリン、ハロルド・ロイド、バスター・キートン。
DVDで名作の誉れ高い「キートンのセブン・チャンス」を鑑賞しました。
この映画でのバスター・キートンを観ていると、最もオーソドックスなスラップスティック・コメデイの演技とは、まさしく、これなのだと思えてきます。
バスター・キートンは、グレート・ストーン・フェイス、つまり、偉大なる無表情と呼ばれたそうですが、まったく無表情なのですから、すべては身体を動かして表現するほかないことになります。
ところが、よく観ると彼には小さな動きの演技はあまりないので、必然的に演技は大きく、なおかつ、猛烈なスピードを持って展開されることになります。
この映画を観て、あらためてスピードのないスラップスティツク演技なんてのは、スラップスティックとは言えないなと思ってしまいます。
この映画の最大の見せ場は、後半にやってきます。
前半の求婚をめぐるお話も、キートンらしく不器用で直線的で、それはそれなりの面白さを持ってはいますが、しかしこの前半は、例えば他のコメディアンが演じても、それぞれの持ち味に応じた面白さは出るだろうと思われます。
ところが、キートンが雲霞のごとき花嫁候補の群れに追われる後半は、キートンならではの面白さが一気に爆発します。
野越え山越え、ひたすら逃げ続けるキートンは、その疾走が紛れもなく全力疾走であることで私を驚かせ、その起き上がり方の素早さでアッと言わせてくれます。
キートンは、決して手を抜いたり、ふざけたりしません。
世界中の誰よりも真面目に、スラップスティック演技に全身全霊を捧げているのです。
キートン喜劇の面白さ、可笑しさは、まさに彼の生真面目から生まれてくるものだと思います。
彼の映画の笑いは、押しの一点張りが成功した時にめざましいものになります。
それは、チャップリンのような緩急自在の呼吸から生み出される笑いとは、まったく違う笑いなのだと言えると思います。