5.《ネタバレ》 ローレンス・カスダンという職人監督が好きだ。作品全体の手触りが心地よい。何と言っても人物造形が自然で上手だと思う。初めのうちはどういう人物なのかよく分からない登場人物たちが、エピソードを追う毎に肉付けされキャラの深みと魅力を増していく。分かりやすい薄っぺらな善人もいなければ、万人が嫌うような悪人もいない。イヤな奴が最後に劇的にイイ人に変身することもない。皆それぞれに欠点や弱さを抱えながらも「その人らしさ」がキラリと輝く、そんな実のある人間像を見せてくれて気持ちいい。
本作の場合、陰気でシニカルな主人公とその家族の変人ぶりなど、描き方次第で愛されるキャラになるかドン引きされるかがハッキリ分かれてしまう気がするがその辺りのさばき方が上手いから物語が破綻しない。主人公に付きまとう「ヘンな女」ジーナ・デイヴィスにしても、個性的で魅力ある女性なのか自分勝手でウザイ奴なのか難しいところなんだけど、彼女自身の素養も加わって可愛く見えてくるのが、やはり演出の妙と思える。ジーナの衣装にも注目したいところ。チープシックでちょっとヘンテコなお洒落がこの女性の性質を饒舌に物語っている。
ビジネス旅行(出張)とは自宅から出なければならないアクシデント(不測の出来事)なんだと言って、その数日間を心安らかに過せる方法を伝授する、そんな旅行記を書いている主人公なんだけど、実は人生そのものがアクシデントの連続、生きていくって偶発的な出来事にあふれた世の中を旅していくことなんだよね、誰もがアクシデンタル・ツーリストなのさ、ってそんなオハナシ。子供を亡くして心の内に引き籠ってしまっていた主人公が、新しい人生に一歩を踏み出す勇気を得たラストの笑顔がグッとくる。最強のパスポートは「誰かから必要とされる自分」であること、なのです。