2.《ネタバレ》 こういう映画はセンスが必要で
センスの無い人間が、単にシニカルなドキュメンタリー風に撮っただけなら
こんなに面白くは成らないと思います。
彼独特のブラックジョーク、そして自分の立ち位置を見切ったが故の突撃嫌がらせ取材
そういう諸々でバラバラな事柄を、効果的に1本の映画として成立させている映像センス。
これがムーア氏を有名たらしめたファクターでしょう。
アポ無し取材にしても、相手がどういう対応に出るかで自分自身の出方も素早く変えながら
それを映画のネタにしてしまう、こんな芸当は常人には出来ない事です。
最後の方でノコノコと出て来たナイキの社長などはまさにその良い例で
余裕コイて、「会う」などと言った馬鹿社長をとことんコキ降ろしてやろうと
僅かな時間でその対応を考え、友好的に接しながら、言質を引き出そうとする所などはまさに圧巻です。
案の定、この馬鹿社長は完全に晒し者に成りました。
ムーア氏の提案にも満足に答えられないばかりか
自分の隠して置きたい恥部(14歳発言や、フリント工場建設拒否、守銭奴ぶり)まで曝け出す破目に成った。
ムーア氏の映画はいつも同じです。
「大企業や金持ちは金を儲けるならその分を恵まれない人間(つまり貧乏人)に再分配しろ」
「政府や政治家は真実(本当の意図)を隠して世論を誘導するな」
「マイノリティー、社会的弱者を圧殺するな」
大まかに言えばこの3点の為に戦っている。
しかし、逆に言うとムーア氏の取材姿勢や映画が
大企業や米政府の民衆に対する、体の良いガス抜きに使われてしまっている事も事実です。
映画を見て感化され、人々が一大政治勢力を作ったという話はまだ聞きません。
逆に最終的にはそこまで行き着かなければ、彼の目的は成就しないでしょう。
民主党もダメ、共和党もダメ、アメリカの状況は今の日本にも良く似ています。
ココから先は「散々暴いてきたアメリカのダメダメな過去を未来に向け、どう正すのか?」
そこまで踏み込んだ形にしないといけないのかも知れません。
「この映画の収益の半分をフリントの恵まれない子供達に贈る」
これを本編では宣伝がましい事を一切せず、映画の最後の最後にサラリと言ってのける辺りに
彼のマイノリティー、とりわけ、社会的弱者に対する暖かさや信条が垣間見えています。