1.《ネタバレ》 求道者の激しさを表現したいのか、清貧の美徳を説く物語なのか、いやもしかしたら、骨髄バンクの紐付き映画かもしれないぞと、一瞬戸惑うところもあったが、それでも終わりまで淀み無く見せ切ってしまうのは、ひとえに田中裕子の演技力の賜である。「女性版ハードボイルドが作りたかった。」高橋伴明はそう言っている。この映画、確かにハードボイルドの真髄である「覚悟」を描いている。田中裕子という女優は「覚悟」を表現するのが上手で、その反面、時に冷酷さを感じさせる所のある人だが、高橋伴明の丁寧な演出がそれを救っている。例えば、結婚式に欠席したこと、孫の誕生に祝福の態度ひとつ見せない母親に対して、娘が苦言を呈した後の切り返しのシーン。清子は「この金をきれいにしてからものを言え!」と、これまでに娘にかけた全経費が記されたノートを眼の前に叩きつけて啖呵を切る。このシーン、これで終わっては、田中裕子のキツさだけが残るところだが、監督は次のような場面を繋ぐ。夕焼けの庭を、子守唄を謳いながら孫を負ぶって歩く清子の遠景。その姿を、軒下で寝そべりながら団扇を仰ぎ、ちょっと恨めしそうな目つきに見ている娘のカット。台詞はないが、全てをフォローしているのである。思わず巧いと唸ってしまった。