1.《ネタバレ》 ここ数年、東京だと渋谷のユーロスペースで毎年開催されている「イスラーム映画祭」という催しにて鑑賞したものです。まずは「幻想的・詩情的」とか「ファンタジック」とかって言葉で紹介されることの多い作品である様なのですが、確かに、展開運びにせよ・個々の演出や演技にせよ、通常の劇映画とはかなり異質な…と言うか、一言で言うと「夢でも見てる」かの様な、という意味でのイリュージョンチックな感覚が(ド初っ端から最後まで)感じられて居りましたですね。もう少しダケ、細かく分解して申し上げるならば、話の展開の部分については(パッと思い付くモノで例えると)『ツィゴイネルワイゼン』みたいな硬質な浮遊感が在った様に思えたのと、他方で演出の部分については、中東・中央アジア的な荒涼とした種々の風景をふんだんに利用しつつ+ソコに(却って)正に極彩色!と言っても好い様な鮮やかな色彩を散りばめた画づくりからは、件のパラジャーノフ作品にも似通った様な極めて高度な芸術的感覚までをも覚えられたのですよね。
しかし、その上で、そんな夢の如くに揺蕩う様な序盤~中盤を越えていった時に、終盤にかけては意外なまでに監督の設定した(であろう)テーマが強固に・見事に形づくられて語られてゆくと言うか、今作もまた、後にイラン政府から上映禁止処分を受けた…ということが(ソコでは)容易に実感できるホドに、実に清々しく(因習的な抑圧や社会的不条理からの)一つの「解放」を描いている映画だ…というコトがヴィヴィッドに理解できてしまったのですよね。芸術性とテーマ性の両立という意味では、思いがけずも確実に、古今東西でも最上位レベルの傑作だと思いますよコレ。やはり、中東でも特にイラン映画は全く以て侮れない…との思いを新たにしましたですね。