1.《ネタバレ》 「シャーロック・ホームズ」鑑賞時にはガイ・リッチーはそれほど大したことがないと思っていたが、本作を観れば、それが誤解だということが分かる。
「シャーロック・ホームズ」で不満に思っていたようなことが本作では全てクリアーになっていた。
先が全く読めない展開であり、一瞬も気を置けない緊張感で溢れている。
本作によって彼の評価は“特異な才能をもつ優秀な監督”というものに変わった。
デヴィット・リンチ、デヴィッド・フィンチャー、クエンティン・タランティーノ監督などの他の作品からのアイディア借用のような展開もみられるが、批判を恐れずに、自分のやりたいことを追求したことによって、個性の感じられる自己流の作品に仕上がった。
エッジの効いた独自の世界観が構築されているだけではなくて、ガイ・リッチー節が効いたクライムサスペンスをベースにしたエンターテイメント性も十分感じられる。
突然アニメを使ったり、エンドロールがなかったりと行き過ぎた点も見られるが、一種の“遊び”と捉えて、多めに見よう。
様々なことをやりたくなって、暴走してしまっただけだろう。
初見では完全に理解できたとは言いがたいところもあるが、彼が描こうとしたことはだいたい伝わったような気がする。
“全てが現実”から“全て独房における妄想”といったものまで様々な解釈が可能なので、あえて紹介する必要はないだろうが、個人的には精神を病んだ元囚人の見事な復讐劇だったという解釈にしたい。
ゲームに勝つために、彼は自分で自分を騙したのだろうか。
前半のゲーム性のあるクライムサスペンスから一転して、後半では心理的な要素をメインにしていくという思い切った意外性も評価したい。
おかげで付いていくのが大変かもしれないが、訳の分からない世界にいざなってくれたおかげで、各キャラクターと同様に何が現実で、何が虚構なのかという“混乱”した精神状態を堪能できるのではないか。
過去の彼の作品とは異なり、観客を騙す、騙されるという“オチ”のようなものを披露して観客を驚かすといった単純なものではないという点も評価したい。
初期の作品から成長して、本作によって前進しているのではないかと思う。