2.主人公ジャックが語る体験談は虚実ないまぜで、いかにも老人の昔語りという趣。数奇な運命に翻弄され白人社会と先住民社会を行き来する彼の姿をみると、結局アイデンティティーって何なんだろうと思わせる展開。そんなの無意味だよと訴えているのかのよう。そこが本作の奥深い魅力になっている。
ジャックが一貫しているのは生に対する執着であり、故に波乱万丈を潜り抜け121歳まで生き延びることができたと言えよう。彼とペテン師の行動からは“とにかく生きろ”というメッセージが伝わる。加えて、必死に生きるほど滲み出るおかしみ。“追い詰められれば最後は笑うしかない”に一脈通じるような。
騎兵隊の先住民虐殺を批判的に描いているが、製作当時の世相からソンミ村虐殺を連想し、ベトナム戦争批判とも受け取れる。また、ジャック夫妻の乗った馬車が先住民の襲撃を受ける逸話で、ジャックと先住民が馬から馬に飛び移るシーンは「駅馬車」を彷彿させる。襲ったはずの先住民が、飛び移りを一緒に楽しむかのごとく嬉々とした表情を見せるところに皮肉を感じる。これらはフォード映画に代表される白人史観の西部劇に対するアンチテーゼだろう。
D・ホフマンはジャックの若い頃を飄々と演じて魅せるとともに、昔を回想する老人の姿を見事にこなし、2つをうまく演じ分けた。シャイアン族の長老役C・D・ジョージは素朴で味わい深い演技を見せ好演。