11.日本人にとってはまとまりの無い題材のダラダラ長い映画。しかし日本人にとっての戦国時代がそうであるように、アメリカという歴史の浅い国に住むアメリカ人にとってはこれこそ、ただ再現された風景を見るだけでもノスタルジーに浸れる大河ドラマであるのだろう。石油、金、宗教、競争(裏に銃と殺人)そして夢という題材、まさにアメリカという国の夜明けを描いた作品である。それが脈々と受け継がれ、全てが悪い方向へたどり着き、いつしか夢が消えてしまったのが今のアメリカという存在だ。現代のアメリカ人がこの映画を見て出発点に立ち返り涙するのも無理は無い。 【Arufu】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-05-08 22:14:31) (良:1票) |
10.《ネタバレ》 この「石油を掘って金持ちになった男」という、どう料理しても美味しそうな作品にはなりそうもない材料で作ったにしては、映画としての面白さは味わえる作品に仕上がっていたと思う。 子供への思いの絶妙な揺れ幅の描き方は圧巻。 私にも子供がいますが、実子であっても、想いが揺れることがある。 自分の時間やお金が、大量にかかること。 キャリアが育児で中断されること。 運動が苦手なことにがっかりしたり、成績が悪いと怒ったりもする。 でもそれを遥かに上回る愛情があるから、親でいられる。 ダニエルの場合、実子ではない。 けれど愛はある。 「この子供は石油事業を円滑にする道具でしかない」と、彼は必死に自分に言い聞かせている。 けれど確かに愛はあって、結果彼はその愛に負けてしまう。 ダニエル・デイ=ルイスの演技は、新作が出るたびに「もうこれ以上はない至高の到達点だろう」と思うのに、次の作品では更に磨きのかかった演技を見せてくれる。 ブッチャーの演技がわざとらしく思えてしまうほどの今回の演技は、神業の域に達している。 8点献上! 【ともとも】さん [DVD(字幕)] 8点(2009-02-06 22:18:31) |
9.《ネタバレ》 信仰の自由を求めたプロテスタントと自分の土地を求めた小作人により建国されたアメリカは、本来は貧しくも清くマジメであることを美徳とした国でしたが、ゴールドラッシュにより一攫千金に目覚め、石油により物質的な豊かさを追い求める国に変貌したのが19世紀終わりから20世紀はじめ。その時代を舞台にした本作は現代アメリカのデフォルメとなっています。ダニエルによる石油採掘を人々が歓迎する中、唯一土地を売らなかったのがホームステッド法(未開発の土地を農民に払い下げる制度。未開の地を家族だけで開墾するという大変な困難が待っていました)により苦労の末土地を得たおじいちゃんだったのは、古き清貧のアメリカ人と物質主義の新しいアメリカ人の対比でしょう。この期に及んで土地を提供しないこのおじいちゃんは、ダニエルからすれば「どうせ値段を吊り上げるハラだろ」としか見えていません。しかし実際には、札束で相手の頬を叩くような相手に大事な土地は渡せないけど、人として接するなら喜んで提供しましょうというのがおじいちゃんの意思でした。そんなおじいちゃんが人として大事だと考えているのが信仰でしたが、その信仰もすでに死んでいます。伝道師のポールは大袈裟なパフォーマンスで人を集めますが、彼の言動には神に対する畏れや敬意、人々を正しく導こうとする信念などはなく、金儲けの道具として人々の信仰心を利用しているのみ。「私は悪人です」と正直に言ってるダニエルよりも、正義面して人々の心につけこんでるだけ彼の方がタチが悪いともいえます。そしてラストではおじいちゃんは死に、その孫は農民として地道に働くことではなくハリウッドの俳優を目指し、伝道師はおじいちゃんの土地をダシにダニエルから金をせびろうとし、そのダニエルはおじいちゃんの土地の石油を黙って勝手にかすめ盗っていたという、古き良きアメリカは死に、なんとも浮わついた人たちだけがこの国に残ってしまいましたというオチ。お見事です。また、弟と名乗るヘンリーが現れた途端にHWを捨て、そんなヘンリーがニセモノだとわかるやまたHWを呼び戻すというダニエルの行動がありましたが、利害が一致すれば独裁国家でも支援し、都合が悪くなればかつて仲良しだったフセインやタリバンと戦争してしまうという、なんとも節操のないアメリカ外交みたいで興味深かったです。 【ザ・チャンバラ】さん [ブルーレイ(吹替)] 8点(2008-09-12 01:46:54) (良:2票) |
8.《ネタバレ》 さすがは世界一のカメレオン俳優ダニエル・デイ=ルイス。彼の場合は役の人を演じるというより、役の人そのものになる、という感じする。本当に凄い、天性の役者だと思う。さて、「水と油は混ざらない」という言葉がありますが、この作品の場合はその水が「血」になる。主人公のダニエルは育った家庭環境のせいで、人を信用出来ず、憎悪だけが生まれる性格になってしまう。それ故に彼は孤独だから、血のつながり、人のつながりというのを渇望している。自分が弟だと名乗って現れた男をダニエルは受け入れ、共に泳ぎ思い出を語り、「一緒でないと出来ない」とまで言いながら、結局偽物だとわかった途端殺してしまう。そして本当の弟の日記を読んで泣き崩れる。孤児であるH.Wを拾い自分の息子のように可愛がっていたのも、血のつながりを求めている所以である。彼がどん欲なまでに大地の血液である「石油」を追い求めるのは、そういう血のつながりを追い求める深層心理があるからである。しかしその石油がH.Wの聴力をなくしてしまう。成人となったH.Wが石油を掘りたいと言うと、ダニエルはお前とは血のつながりがないと言う。しかし本当は、彼は穏やかな家族を築きたかったんだというのが、その後のフラッシュ・バックによって指し示される。自分が望んでいたつながりは絶たれ、あろうことか望んでもいない偽予言者イーライが自分の親戚関係となる。石油がひきつけたこの自分と表裏一体の人物を、自分の手で殺す。やっと終わった、と。石油は欲望の比喩であり、血はヒューマニズムの比喩である。この2つは水と油のごとく、混ざらない。この2つの分裂、引裂をそのまま表してるのが、ダニエルやイーライが絶叫する懺悔のシーンである。人間は初めから相反するものを内に秘める、根本誤謬な生き物なのである。 【あろえりーな】さん [DVD(字幕)] 8点(2008-08-24 21:29:43) (良:1票) |
7.《ネタバレ》 良かったです。ダニエル(役名と同じ!)がブレない生き方を最後まで貫くところは良くも悪くもスカッとするところがありました。牧師との対峙が見所かと思いましたが、何の何の、ダニエルの圧勝・完勝ですね。 【NEWかるび】さん [DVD(字幕)] 8点(2008-08-24 16:44:55) |
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6.《ネタバレ》 19世紀の末から20世紀初頭に掛けての石油発掘ブームが齎す富によって、狂人と化していく一人の人間がこの作品には描かれていました。映画の基本は、とにかく人間を描くことであり、それはたとえ狂人と化していく人間であったとしても感情移入できなければ観客は置き去りにされ、そうなってしまえば後は出来事を眺めているしか出来なくなるので、そういった意味で、この作品に描かれている狂人の感情は上手く描かれていると思いました。富と権力を手にしていく主人公は、自分が大好きなのでしょう。それは僕も同じです。なによりわが身が大切です。しかし、この主人公は表面では他人を気遣いながら、隠れた人間の本性ともいえる部分で自らの欲望を妨害しようとするものを次々蹴落としていきます。その姿は、人間の真実の姿を写しているかのようで恐ろしくもあり、また感情移入し、彼の行動とその動機を理解できている自分さえ恐ろしく感じました。ある意味、その行動が理解できているうちは、彼は狂人ではなかったのかもしれません。それはぼくのフィルターを通した上での判断ですが、きっとこの作品に触れ、ぼくと同じように主人公に感情移入できた方も同じような意見だと信じたいです。また、あそこまで自分本位になれる姿は、人間の深層心理にある欲望を描いていたように思います。ぼくもできることなら彼のように自分本位な人間になりたいですが、それを抑えるのもまた人間の理性であり、彼のあの姿は人間の理性を切り取った、人間の欲の部分だったのだと思います。それはラストで彼が発する「終わった」という台詞に集約されており、自分の欲望を邪魔する者がいなくなったことを意味していたように思います。つまり、人間は理性を失えば、みな、あの主人公と同じような狂人になりかねないことを描いていたのだと推測します。あの姿こそ、人間の執着地点。人間からそうでない存在になる瞬間だと思います。あれは彼の人生の目的の終わりであると同時に、人間の終わりを意味しているように感じました。人間は誰もが彼と同じようになる可能性を秘めており、この作品はそんな人間の恐ろしい可能性を描いた社会派作品だと思いました。 【ボビー】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-05-29 19:43:22) |
5.全編を通じて蚊がブンブンとんでいるようなジョニー・ウインウッドの音楽が意外なくらいに映像と合っていました。蚊の羽の音は不快なはずなのに心地よくさえ感じました。ダニエル・デイ=ルイスがそばに寄りたくないほど嫌悪感を感じるのに、そのくせ不思議なくらい惹かれてしまう男を演じていて見事でした。個人的には「パフューム」の殺人鬼と同じ匂いの強さと孤独を感じました。エンドロールのラストでアルトマンに捧げるという言葉に思わず納得してしまいました。 【omut】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-05-29 05:19:51) |
4.《ネタバレ》 赤茶けた荒涼とした土地に「石油」が眠っている。ブラッド…見えない所に熱く堪り、事があれば吹き出す石油への比喩。日焼けで赤茶けてざらざらしたオイルマンの顔、その下にも「血」が流れている。石油と血、というどろどろした液体のメタファーで、潤いの無い大地と人間性の欠片もない人間を繋げ、二重映しでドラマは進む。結末は悲劇になるより他はない。ただし、インチキ宗教家をやり込めるラストは予想外。人間の少しはあるはずの良心/宗教心(インチキ宗教家をいいように捉えての提示)を完膚無きまでに蹂躙して終わる。だからといって救いがないのではない。救いの無い人間を描くのは、ヒューマニズムを信じたい事の裏返し。「血があるのだ」と最後にタイトルが出る。制作者の裏返った願いがこもる。人によってはボギー主演の「黄金」の人間の強欲の虚しさを思うだろう。結末に「ジャイアンツ」のJ・ディーンの末路と重ねるだろう。心の闇とその転落のドラマに「市民ケーン」を見る人もいるだろう。市民ケーンの幼少の傷は、このオイルマンでは無神論/物欲主義として、摺り合わせてみるのも面白いかもしれない。 【K-Young】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-05-19 19:51:17) |
3.《ネタバレ》 主人公ダニエルは欲に取り付かれた男、という紹介が多いので、極悪非道なイメージだったのですが、ちょっと違いましたね。「人を信用できない」と嘆き、そのくせ偽の弟や偽の息子に一縷の望みを託しそうになる哀しい男。どちらにも結果的に裏切られ、また自分も裏切ってしまう。最後に自分と表裏一体の牧師イーライに近親憎悪的な処分をしたのだと見えました。ダニエルもイーライも多くは語られないけれど、古くから家族との信頼関係を築くことができなかった、そして長じても伴侶を得ることができなかったという共通点がありますから。救いのない話ですが、長時間でも退屈せず、深いです。それにしてもP.T.A.は怖がらせるのがうまい…。 【ねふねふ】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-05-05 19:45:03) |
2.《ネタバレ》 不快な効果音と苛つかせる音楽が、この映画の印象をさらに重々しくさせる。金しか信じないダニエルと宗教を食い物にするイーライはどちらも同罪。全編通して「愛」が存在しない映画だ。 【kaaaz】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-04-27 23:27:25) |
1.《ネタバレ》 全編出ずっぱりのダイエル・デイ=ルイスに圧倒されっぱなし。人を信用できず、お金を稼ぐためにのみ人を必要とする男の情熱を体現している。対して、息子(実の息子ではない)への愛情は複雑さがある。息子との決別、狂信的な牧師との対決と続くラストはスクリーンに釘付け。牧師が双子だという点が途中まで掴めなかったので、ちょっと困りました。ロバート・アルトマン監督に捧げられた、パワーみなぎる映画です。 【カワウソの聞耳】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-04-27 13:14:40) |