1.トンネルを越えて紅葉の山道を登っていくオープニングの緩やかな縦移動の感覚。
三國連太郎が墓参する、あるいは小倉一郎が農作業する山の斜面の感覚。
激しく窓を打つ豪雨と暴風の描写が素晴らしい山の嵐の感覚。
そして、原田芳雄の営む食堂の外観・内装から滲み出る地味な生活感を笠松則通の落ち着いたカメラが的確に掬い取る。
現地ロケーションと役者の馴染み具合が何よりで、おひねりの白い和紙や掛け声の飛び交う、客席と舞台上とのコミュニケーションもすこぶる楽しい。
手前に食堂テーブル、奥に玄関。あるいは手前に洗濯機とトイレ、奥に居間といった手狭感の秀逸な縦構図のなか、それぞれ岸部一徳や松たか子、冨浦智嗣らと原田芳雄が絡むロングテイク主体の対話劇もいずれもユーモア豊かで味わい深い。
ラスト近く、原田と大楠道代が並ぶ、舞台後の裏口のロングショットもいい距離感を出している。
そのうえで繰り出される、原田振り返りのクロースアップが尋常でない凄みを放ち、感慨深い。
三國連太郎との充実した芝居のなか、目深に被り直すテンガロンハットの芝居も泣かせる。