1.《ネタバレ》 映画オタクの思考とは不思議なもので、時に「世間の評価が高く、きっと感動出来るであろう名作」よりも「評価がイマイチで、程々の満足感しか得られないであろう凡作」を観たくなる事があります。
そんな訳で、本作も「凡作」目当てに鑑賞したという、期待値の低い一本だったのですが……
これがもう、意外なくらいに面白くって、吃驚しちゃいましたね。
序盤にて「それぞれ他の相手と電話してるのに、まるで二人がデートしてるかのように話が合ってる」っていう主人公カップルの場面で、もう心奪われたし、そこから先も中弛みを感じる事無く、最後まで楽しく完走出来たんだから凄い。
本当、何でこんなに面白かったんだろうと考えてみたんですが……
まず、主人公の設定が良かったと思います。
主人公のディランって、社会的に成功してる若きエリートで、普通ならとても感情移入出来ない存在なのに、不思議なくらい「等身大の若者」としての魅力が有ったんです。
それは演者さんの力も大きいんだろうけど、個人的には彼を「初めてニューヨークを訪れ、ヒロインに案内してもらう若者」として描いてたのが、大きかったように思えます。
「新天地を訪れた、何も知らない存在」という主人公だからこそ、観ている側としても、まるで自分がニューヨークを案内されてるかのような気持ちになれた訳だし、自然な形で観客と主人公を一体化させてるのが上手い。
物語が進むにつれ、完璧なエリートと思われたディランが、意外と弱点が多くて憎めない奴なんだって分かる流れも、良かったです。
この辺りは、もしかしたら女性の観客からすると「カッコいいと思ってたのに、幻滅」って感じちゃうかも知れませんが、彼を恋愛対象ではなく、感情移入の対象として捉えていた自分としては、大いに共感。
ヒロインのジェイミーも、お姫様願望が強くて、色々と「重い」タイプだったりするんだけど、ちゃんと可愛く思えたし……
こういう「欠点が愛嬌に感じられる描き方」って、とても大切ですよね。
認知症の父という存在も、明るく楽しい物語の中で、不協和音にならない程度の「シリアスな現実」として、良いアクセントになってたと思います。
特に終盤、空港で父に倣い、ディランも一緒にズボンを脱いで話す場面は、何かもう、凄くグッと来ちゃったんですよね。
この映画って、その場面までは「普通のラブコメ」「ありきたりな展開」でしかなかったのに、ここで主人公が「普通である事」を奪われてしまった父親と向き合い、当たり前にあると思っていた「普通」が、何時かは失われる事を説かれるんです。
主人公が親しい人に説得されて、ヒロインに告白するというラブコメお約束の流れでしかないはずなのに、この「人生は短い。だから、愛する彼女と共に過ごしたい」と主人公が悟る場面は、本当に秀逸であり、魅せ方次第でこんなに印象が変わるのかって、感心しちゃったくらい。
その後に訪れる、これまたお約束な「主人公からヒロインへの告白場面」も、良かったですね。
ジェイミーが「映画のヒロインになってみたい」と呟いていた事を踏まえての「映画のヒロインにしてあげる」という告白の仕方が、本当にロマンティック。
(うわぁ……良いなぁ、これ)(すっごく良い映画だな)って、しみじみ感じちゃいました。
改めて振り返ってみても、あらすじというか、全体の流れは「王道」「普通」なラブコメ映画でしかないのに「お約束の場面」をセンス抜群な演出で決めてくれてる御蔭で、特別な映画になってると感じられましたね。
その他にも、ディランの同僚に、ジェイミーの母親といった脇役陣も良い味を出していたし、劇中で流れる曲も好みだったしで、もう文句無し。
「ラブコメ映画のエンディングで流れるNG集を観て、幸せそうに笑う二人」で終わるという、現実と虚構が二重構造になってるハッピーエンドも、とても良かったです。
109分という時間を、映画と共に楽しく過ごせました。