3.《ネタバレ》 本作は上映時間のちょうど真ん中辺りで綺麗に分断されており、前半と後半でほぼ別の映画になっています。
恋愛経験の少ないマンガオタクがガチ恋愛をしてしまった。しかも、相手はよりによってレズビアンという落としづらさMAXの相手。進展を諦めて友人関係に落ち着くべきか、それとも関係性の破壊を覚悟で一か八かの大勝負に出るべきかという主人公の葛藤は世の多くの男性が経験していることだし、ミューズ役・アリッサの丁度いいレベルの美人加減なども良く、前半部分は男のロマコメとして非常によくできていました。
後半は一点して重苦しい展開を迎えます。愛しのアリッサが地元では有名なヤリ○ンだったことが判明し、海よりも深く落ち込むホールデン。前半が恋愛映画だとすると、後半は恋愛を考察した映画になっています。恋人の過去が気になって仕方がなくて、言わなきゃいいことだとは分かってるのに、言わずにはいられなくなってしまう男の悲しい性が痛々しいほどリアルに描かれています。
また、ひと悶着あった後にホールデンが提示する「みんなで3Pしよう」という解決策。誰が聞いても論外なのですが、彼だけは真剣。でもこういうバカなところって、男にはありますよね。
さらにラスト。自作がアニメ化されるという大チャンスを棒に振り、友人兼ビジネスパートナーを失ってまで1年間悩み苦しんだ末に、元カノとの思い出をマンガにしたホールデン。その渾身作を持ってアリッサの前に姿を現し、未練たっぷりの顔で「感想を聞かせてほしい」と言うわけですが、その様は自作の歌を彼女に送る高校生ばりのダサさ全開で、結局男は何も進歩しないという終わり方をします。
一方アリッサはと言うと、1年ぶりに再会した元カレの前で一応瞳を潤ませてみせるものの、ホールデンが去り、入れ替わりで友人が戻ってくるとホールデンのマンガをポンと投げ捨て、すぐに現在の日常へと戻っていきます。恋愛する時の男は愚かで、一方女性は冷静。その現実をまざまざと見せつけられるラストでした。
『エターナル・サンシャイン』や『ブルーバレンタイン』など恋愛を考察した映画には傑作が多いのですが、例に漏れず本作も傑作だと感じました。
あと、本作が凄いと感じたのが、ホールデンはケヴィン・スミス自身を投影したキャラクターであるだけでなく、アリッサ役のジョーイ・ローレン・アダムスこそがスミスの元カノであるという事実です。自分がフラれた時の話を、自分をフッた元カノを使って映画化するというスミスのイカれ具合。また、恋愛の過程をマンガにして彼女に贈ったホールデンのみっともない姿は、元カノを忘れられなくてこんな映画までを作ったスミスの自己批評でもあったことへの驚き。そうしたバックストーリーまでを踏まえて作品を見ると、ひとりの男の生きざまとしても味が出てきます。