1.《ネタバレ》 もはやどれがどれだか分からない状態になっているステイサム作品群の中では、ピカイチの出来だと感じました。観客の感情を高ぶらせることに長けた脚本家・スタローンによる作品だけあって、心にガツンとくる仕上がりとなっています。主人公に絡んでくる田舎者がとにかく不快で、忍従を重ねた末に主人公が殺人技を駆使して敵をなぎ倒す様には拍手喝采したくなるほどの興奮がありました。これぞB級アクションの醍醐味です。また、田舎者を演じる面々が、かつては次世代スター候補として将来を期待されていた俳優達ばかりで、その変貌ぶりも含めて楽しむことができました。現役時代には清楚なイメージのあったウィノナ・ライダーに田舎の年増売春婦をやらせるというキャスティングを考えた人は天才だと思います。
しかしこの映画、単純なB級アクションという体裁とは裏腹に、暴力の連鎖に関する興味深い考察も行っており、見終わった後にもいろいろと考えさせられる内容となっています。結局、このお話で誰が悪かったのかを考えると、なかなか答えが出てきません。モンスターペアレントはクズ野郎だが、子供の前であれだけ無様にやられれば腹も立つだろうし、一応の悪役とされている半グレだってマジのヤクザが出てきた辺りから事態を収めきれなくなっており、誰も意図しないままに争いがどんどん膨れ上がっているのです。この田舎町における異物であった主人公こそが火種だったのではという気すらしてきます。主人公は、町外れの大きな屋敷を買い、新車に乗って娘と二人でスローライフを満喫。働いている様子もないのですぐに噂は広まり、彼らの存在を面白くないと感じる住民も現れます。それが田舎なのです。しかし主人公はそうした空気を察知できず、田舎町を成り立たせていた秩序を無意識のうちに破壊していきます。例えばあの半グレ。注目すべきは彼の登場場面で、ちょっと悪さをはじめた高校生をボコボコに殴り、「ワルを舐めんなよ!」と言って日常へと追い返す。一昔前には日本の街にもいた怖いお兄さんとして夜の風紀委員の役割を担っており、それゆえに、保安官も彼の行動には目を瞑っていたようです。しかし、善か悪かの二元論でしか物事を捉えられない主人公はこいつを潰しにかかり、その結果、事態は制御不能となってしまうのです。『ダークナイト』でもやっていましたが、敵を倒せばいいというものでもないのです。