1.《ネタバレ》 言葉で語らず、情景で観客に問い掛ける、これぞ黒沢清作品の真骨頂。お馴染みサスペンスミステリーでも、ホラーでも、難解映画でもありませんが、計算し尽くされています。注意深く観察し想像力を働かせながらご覧になると、きっと楽しめると思います。以下は私なりの勝手解釈。お時間あればお目通しください。
小柄で華奢、幼さを残した表情の中に垣間見える疲労と苛立ち。見た目どおり、主人公のパーソナリティは子供以上大人未満です。そんな葉子の現在地を前田敦子が見事に体現しています。彼女のキャスティングは、まさに神レベルでした。流石元祖神7。歌手になる夢を持ちながら、今は足踏み状態でイライラ。本当は目標に真っ直ぐ向かいたい性分なのです。だから道無き道もなんのその。行き方(生き方)が分からないなら、アドバイスをもらえばいいのに、妙なプライドが邪魔をします。無理なら断るのも勇気。助けてもらうのは恥ですか?独り善がりな判断で行動し大失敗、挙げ句逃避なんて馬鹿丸出しです。自分の中の浅い知識、狭い了見だけで完結しようとするから空回り、行き詰まりを繰り返します。彼女の内面はまだ幼いのです。その端的なエピソードは、やはり山羊解放でしょう。家畜に自身を投影し、野に逃がして自由だバンザイなんて、そんなアホな。でもラスト、野犬の餌食との予想を覆し、山羊ちゃんは野生下で逞しく生きていました。これが意味するのは一体何でしょうか?常識が正しいと決めつけるのは、もしかしたら大人の悪い癖かもしれません。行動力だけは人一倍。それは紛れもなく彼女の長所です。間違いを犯し、恐怖を覚え、恥をかき、己が無力さを知り、人は成長していきます。経験は宝。行動することを恐れてはいけません。そして導いてくれる人生の先輩に感謝する事も。監督は彼女の未熟さを肯定してくれている気がしました。正確なタイトルは、『(子供の)旅のおわり(大人の)世界のはじまり』です。以下余談。ローカル遊園地のアトラクションが半端なくヤバそうで身震いしました。あれ演出なしで実在するなら、死人が出てもおかしくないような。ウズベキスタンの遊具恐るべし。