1.《ネタバレ》 和歌山県の太地町立くじらの博物館を舞台にした映画である。冒頭から人とクジラの息の合った演技に驚かされる。
当然ながらクジラに対する地元の思いが語られているほか豆知識なども出ており、クジラとイルカの違いはわかったのと(大事なことらしく二回言っていた)、手触りがナスというのは見た目で想像した通りである。またご当地PRとして近隣の那智勝浦町や串本町の名所も紹介している(那智山青岸渡寺はめちゃめちゃ赤い)。
ほか特に前半では、監督が大阪出身なのと関係あるかわからないが関西風コメディのような雰囲気で、険悪になりそうなところを笑いに転じる面白さは高等技術かも知れない。「ご無沙汰」まで言わせてさっさと次に行くなど切れのいいところも見える。
物語としては、行き詰っていた博物館の組織体制を規格外の人物(さかなクンのイメージ?)が再編する話である。この男がリーダーになったのはなぜか、と取材スタッフがメモしたところからその疑問を解いていく形だが、結論としては誰かを敵にして攻撃するのでなく存在を認めること、素直に心を伝えようとする姿勢が大事ということらしい。その上で本当のリーダーは誰だったのか、というのが最後のオチになっており、ドラマとしても作り込まれていて少し泣かせるところもある。
反捕鯨団体の存在も意識されていたが、終盤で最大最悪の敵が来たと思ったらただの2人連れで(エンドクレジットでは「外国人観光客」)、いかにも人相が悪く洒落のわからない連中だったが、たとえ敵に見えても(敵であっても)忌避することなく、虚心に語りかけていきたいとの思いを見せたのかと思った。地元以外の日本人としても聞くべきものがあるように思われる。
出演者では、まず武田梨奈さんがオラオラ系女子になっていたのが可笑しい。序盤でいきなり蹴りを見せたのは元ヤンか何かだったのかも知れないが、今回は暴力ではなく「サーフィン」が見せ場になっている。また岡本玲という女優は和歌山市出身だそうで、美女というより親しみやすい方言女子になっていて好きだ。以上2人に主人公を含めた3人は、年齢差がありそうに見えるが役者はみな同年齢で、劇中で平たい関係になって馴染んでいたのも自然なことだったらしい。
個人的には別のところで見たことのある飯田祐真さんという人に注目していたが、クレジット順が下の割に重要人物で可愛い役だったのは嬉しい。また制作会社のAD(演・彩羽(いろは))の顔つきにはかなり目を引かれた。ほかリポーター役の本谷紗己という人は本職がモデルで「和歌山市観光発信人」だそうで、この人の出番も結構可笑しい。
そういう面を含めて、娯楽性と社会性をほどよく配合したいい映画だった。