1.《ネタバレ》 我々は子を生み育てることを無条件で尊いものだと考えがちなのだけれども、果たしてそれが正しいのか?そういうことを考えさせられる、非常に重いテーマを持った映画である。
最近は「生まれてくる子供が子供が不幸になるから」と「ブサイク」や「頭の悪いやつ」は子供を作るな、と言った発言がネットで見受けられる。これは、「負の遺伝子」が子供に受け継がれ、その為、子供が幸せになれないという理屈であり、いわゆる「反出生主義」というやつである。
人は生まれなければ、幸せを感じることもなかったかもしれないが、生まれたために不幸になることもある。
そしてこの映画は、まさに、自分の娘が負の遺伝子によって不幸になってしまったと考える男の苦悩の物語である。
彼にとっては、父によって娘を殺されてしまったようなものだ。いやそれどころではない、「父によって、自分が娘を殺すことになってしまった」のである。それはまるで呪いのようだ。
さらには、自分が、父親の不貞と脅迫によって、妊娠し生まれた子供ということも分かる。男にとって自分は「生まれないほうがよい存在」に思えたであろう。そして自分を生むことになった、父親に対する怒りや憎しみはすさまじいものだったろう。
ところが、だからと言って、娘の死の責任が、その親にあるとは言えない。レイプなどの犯罪行為は許される行為ではないが、子を作ったことそれ自体を責めていいのだろうか?
このジレンマを抱えたまま物語は救いもなく終わってしまう。
非常に悲しく、やるせない結末でろう。
刑事の娘が、お腹の子供を、悩みつつも堕胎ではなく産もうとする意思を見せたことだけが、最後の救いであった。
さて、この映画は、こういう非常に重いテーマを、サスペンス調に描くことで見事にエンターテインメントに仕上げているといえる。
そしてこの映画には生まれたゆえに自分が、または家族が不幸になったと感じる人の悲劇を殺人事件にからめて見事にエンターテインメントに仕上げている。
また、物語全体を通して醸し出される、暗く、陰鬱で、それでいて荘厳な雰囲気も素晴らしい。
アイスランドという万年冬みたいな国ならではの味わい深さであり、作品の重いテーマによくマッチしている。