5.《ネタバレ》 【今回も長すぎる前書き】
映画評論家:町山智浩氏の著作を読んだ事がきっかけとなり、久々に鑑賞した。
初見は大学2年生、今から何と30年も前の事になる。
時の流れの速さには驚くばかりだが、それ以上に本作が未だに公開当時の謎めいた雰囲気を維持している事に驚愕した。
事の起こりは高校生の時。
「STARLOG」「FANGOLIA」等の洋物映画情報誌の日本版が発売されていた幸せな時代。
おどろおどろしい写真と共に紹介されていたVideodromeの紹介記事に私は釘付けとなった。
海賊盤(死語)が出回っているとの噂も聞いたが、世はまだレンタルビデオが流行し始めた黎明期。
どこで手に入るかも判らぬ謎の本作は、例え様も無い魅力的な作品として私の心の片隅にずっとこびりついていた。
時は流れて(確か)1988年、東京国際映画祭に於けるファンタスティック映画祭の成功が影響し日本で開催された「SFXアカデミー」、
本作の特殊メイクを担当したリック・ベイカーが来日し講演すると聞き、チケットを探し回ったが時既に遅く全席売り切れ。
落胆していた私に、当時日芸映画学科に在席していた姉がどこで仕入れたのか判らないがチケットを準備してくれた!
姉には本当に感謝あるのみ。
講演の内容は今でも鮮明に覚えている。
ベイカー氏本人が自ら"Do you like this film?"とVideodromeに関して質問、
それに対して大勢の聴衆が一斉に挙手!(今みたいに”Yes”とは誰も言わなかった様な)それを見たベイカー氏は
悪戯っぽい顔でニヤリと笑いながら”Sick People...(みんなビョーキだね笑)"と返す。
幸せな時間でした。
【やっと本文】
本作ほど、観る度に謎が謎を呼ぶ作品は無いだろう。
後の多チャンネル化、暴力コンテンツの隆盛と衰退を予見したかの様な世界観。
製作年度が旧いが故の、画面の微妙な粗さが本作のいかがわしさにブーストを掛ける。
皆がメディアに取り付かれ・メディア無しでは生きていけず、メディア内の出来事に一喜一憂し、
時には自らの命をも絶ってしまう・・・
拳銃と有機的に絡みあい、妄想と現実の中でのたうち回るマックスの姿は、紛う事無くスマホに心身ともに蹂躪され、
それを自覚していながら抜け出す事が出来ない現在の私たちそのものだと思う。
マックスは自らの命を絶つことで新しい次元=精神の開放を果たした。
それは果たして本当に幸せな結末だったのだろうか。
翻って私たちはどうすれば良いのか?
初鑑賞時は特殊メイクを目で追う事に終始し、ストーリーは二の次だった。
社会人になってからは本作の内面に秘められた作者のメッセージを何とか読み取ろうともがいた。
齢50を超え、ようやく本作の意図が客観的に俯瞰出来る様になったのかと思う。
鑑賞する年齢で作品への印象が劇的に変わる、「映画の魅力」をまたもや再認識させられた。
(注)本作は冗談抜きで万人向きの映画では決してありません。 鑑賞する際は十分にご注意の程。