1.この戯曲は日本でもよく上演されるけど,主人公ジョーを演じてリタ・トゥシンハム以上の適役は絶対にいない、と思わせるくらい、このひねくれてトゲトゲしい、また孤独で夢見がちな思春期の少女を、まさに存在そのもので表現していたと思う。その分、ジョーやジョフリーのリアリティに比べて、母親役のドラ・ブライアンその他がいかにも職業俳優的に見えてしまったのが残念だ。トニー・リチャードソンの演出は抒情的でいいシーンもあるが、もともとリアリズム本位の演出なので、主人公の儚い淡い夢を表現する幻想的なシーン(たとえば「カビリアの夜」の劇場のシーンのような)があったらもっと良かったと思うのだが、時代の風潮が許さなかったのだろうか。最初と最後に流れるジョン・アディソンの主題曲はひじょうに好きだ。