22.《ネタバレ》 CUREとは"解放"。 『羊たちの沈黙』『セブン』の影響は受けているだろうが、遜色のないクオリティ。 二作品と比べるとひたすら静かに長回しで進んでいくのに、どうなっていくのかという吸引力がある。 質問を質問で返す、コミュニケーションが成り立たない間宮との会話から次第に彼に取り込まれていく恐ろしさ。 日常の延長線上に突発的な殺人が起こるワンショットの破壊力。 そして精神を病んだ妻との関係で追い詰められている高部の本心もまた、 間宮に付け込まれていくきっかけを生んでしまった。 ただ、今までの加害者と違い、高部には"伝道師"としての素質があった。 間宮は後継者を探していたのだろう。 オンとオフ、どちらが本当の自分なのか? それどころか自分は誰なのか? 自分が守ってきたものは何だったのか? その自我が崩れたとき、高部は全てを放り投げ出したように"空っぽ"になった。 二度描かれるファミレスのシーン。 一度は残した料理を、二度目はきれいに平らげ清々しい表情になっている。 タバコの火を合図にウェイトレスが惨劇を引き起こすことを予見して映画は終わる。 一見、良い顔をした優しい善人だとしても心の中に常にわだかまりを抱えている。 その親切が誰にも伝わらない、見返りが感じられないものだと分かったら… 人はどこまでも孤独で、利己的で、誰かと関わる社会が存在する以上、そこから逃れられない。 エンドロールのピアノがその世界への諦観のように思えた。 【Cinecdocke】さん [インターネット(邦画)] 8点(2024-08-17 02:17:54) |
21.《ネタバレ》 一連のオウム真理教事件が作品にそのまま投影されている訳ではないにしても、やはり「オウム後」の作品、ということではあるのかなあ、と。 普通に暮らしている(のであろう)一般人が、ある日突然、身近な人間を殺害する。続発する類似事件の要には、得体の知れない一人の若者がいて・・・となると、この若者が周囲の人間をコントロールして、自らが望まない殺人へと駆り立てる、ということのようではあるのですが、どうもそう簡単には割り切れない。若者にコントロールされるというより、日頃は表に出さないが実は心の底に抱えている鬱屈が、若者と接することで表に出てきただけ、という風にも感じられてきます。そういう、各人の心の暗部みたいなものが、孤立して存在しているようで、実は「この時代」というものを介して、互いに繋がっているような。 若者は、警察のお偉いさんに、あんた誰?という言葉を繰り返し投げつける。いや、名前はわかってる、そうじゃなくって、アンタは何者なんだよ、と言うのはつまり、若者が心に入り込めない相手、逆に言えば、時代が共有する暗部に無頓着で、何も気づかず能天気に生きている人。 たまたま、若者に形を変えて現れた「それ」は、若者が退場したとて解決する訳でもなく、形を変えてこの社会に残っていく。 一種の喩え話のような、寓意性を多分に感じさせる作品ですが、具体的に何が何の比喩になっている、というよりもまず、次々に現れる不気味なイメージが、ちゃんと「ホラー」として機能しています。正体が掴めそうで掴みきれない、何か。 水とか、ライターの炎とかいった、根源的なイメージはある種、「お約束」みたいなところがありますが、それにしてもまあ、この映画に出てくる建物のボロいことボロいこと、特に病院の建物はどうしてこんなに汚いイメージなんでしょうか(笑)。いや、実に見事なキタナさ、です。 【鱗歌】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-03-30 04:37:48) |
20.《ネタバレ》 時期的には被っていたかもしれないけど、こりゃ『セブン』に匹敵するような不快感というかおぞましさを観る者に与えてくれる映画ですな。萩原聖人のキャラの異様さは特筆ものですが、とくに劇中何度も繰り返される萩原=間宮の“質問に対して質問で返す”問答が不快感を増幅させてくれます。これは対人関係でやってはいけない相手を不愉快にさせるコミュニケーション上の悪手で、それをここまで計算づくで織り込んだ脚本は秀逸。いろいろとまぶされているメタファーも伏線でもなく、観客に色んな解釈をさせようとするストーリーテリングは、一から十まで説明する凡庸な邦画が目立つ中では光っています。ただ残念なのは間宮がだんだんと単に記憶障害を装っているだけの詐欺師的な人物に見えてくることで、せっかく確立した日本映画史に残るような不気味なキャラ像が薄れてしまった感がありました。ラストの一見何の違和感もないファミレスでの食事風景で閉めるなんかは、凡庸な映画監督にはできない勇気ある撮り方だったと思いました。今まで何本かは黒沢清の監督作を観ていますが、初めてこの人の才気を感じることができました。 【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2023-12-26 23:38:23) (良:2票) |
19.黒沢清作品の中でも解りやすい部類で且つサスペンスホラーとして面白い出来だと思う。 同じ題材で並の監督だったら直接的な描写に頼ってしまいそうな所を敢えて見せない演出というか想像力に訴えてくるような演出だったのでジワジワ怖くて面白い。 光と影のコントラストが生む日常に潜む闇。 普通に見えた人間が突然殺人を犯す狂気。 不気味なオブジェクト。 催眠術。 邪教。 ビルの屋上から落ちる人(お約束)。 生肉をぶん投げる役所広司。 また、萩原聖人演じる間宮という男がとにかく不気味だし、存在感が凄い。彼に接触した人間が次第に狂っていく様が怖かった。 【ヴレア】さん [インターネット(邦画)] 8点(2020-03-17 17:48:20) (良:1票) |
18.《ネタバレ》 この類の映画は、まさにどのくらい怖かったか、が評価点数に直結するのでしょう。 怖さに対する耐性にはかなり個人差(もしくは経験差)があるようで、その差が本作品に対する評価のバラつきなんだろうと思いました。私には十分すぎるくらい怖かったです。 ただ、視野の隅っこに得体のしれないものが映っている、とか、押入れの扉をあけたら突然現れる、とか、それらに追いかけられる、とかの怖さではなく、精神的内面的に訴える怖さです。かなり高度な怖がらせテクなのではないでしょうか。 ですので、怖いけど見たい場合によくやるように、手のひらで顔を覆って指の隙間から薄目を開けて恐る恐るスクリーンを眺める、という鑑賞をする必要はありませんでの、その手の怖さが苦手の人でも大丈夫だと思います。保証はしませんが。 ほんの少しスプラッタ的場面がありますが、その場面でも、スプラッタ要素は強調せず淡々と映しています。まあ、その淡々さゆえに、その場面が我々の日常生活の延長線上にありそうなので怖いんですが。 あと、萩原聖人はあまり演技の上手な俳優さんではないな、という印象を持っておりましたが、そうか、こんな使い方があったか、と感心しました。私には、萩原聖人が良い演技をした、というよりも、萩原聖人のキャラをうまく活かした配役の妙、だと感じました。 【la_spagna】さん [DVD(邦画)] 8点(2017-09-30 10:57:53) |
17.《ネタバレ》 「犯罪者の心理なんて誰にも分からん。例え本人であっても。」 この言葉には、その後の私の人付き合いのスタンスを変えられた。 趣味は人間観察とのたまう人間のなんと浅はかなことか。 催眠暗示にかける描写はリアルかどうかは分からない (ラポールの形成の描写など)。 被催眠状態 (半覚醒) の人間の雰囲気はよく描けてると思う。 当時、催眠を扱った映画が他にもあったが、それらとは一線を画す出来。 原作既読。原作者が監督だけあって、いや、監督が原作者なだけあってか、どちらもよく出来てるし、 映像も原作を読んだときに喚起された映像として違和感なかった。 人物の風貌は原作と異なるが、特に差し支えなく、一つのバージョンとして出来上がっている。 ちなみに本監督の他の作品は娯楽的ホラー要素が強く、嗜好に合わなかった。この作品こそが彼の真骨頂だと思っている。 【よこやまゆうき】さん [ビデオ(邦画)] 8点(2017-05-29 02:48:25) (良:1票) |
16.《ネタバレ》 「本部長の藤原、あんたは誰だ?」国籍・人種・信仰・職業・家族・名前・住所・電話番号…等々、個人を規定するありとあらゆる肩書きを取り払った上で自分が何者であるかを弁明できるだろうか?大なり小なり社会や組織にアイデンティティを埋没させながら生きている現代人にとっては答えを出すのになかなか骨の折れる質問である。間宮(萩原聖人)はのらりくらりとその人を食った様な問答を通して、相手の固定観念や存在意義を揺さぶりながら催眠による“CURE”を施していく。どんなに温厚な人物でも日常の中でうっすらとしたストレスを抱えながら生きている訳で、それを暗示によって一点に濃縮・増幅させれば殺人だって犯し得るかもしれない。そうしてわだかまっていた憎悪や悪意を表出させて精神的安定を目指す事こそが“CURE”の目的であり、葛藤しながら間宮と対峙し続けた高部(役所広司)もその本質に触れて最終的にはその役目を引き継ぐ事になる。何とも突飛な皮肉に満ちた話ではあるが、これを一概に荒唐無稽と断ずる事もできまい。現に周囲を見回せば至る所で主義主張の名の下に憎悪や悪意が垂れ流されている。敵対する国家・敵対するイデオロギー・敵対する男女 、あらゆる差別やそれに対するカウンターとても例外ではない。理想のため?平和のため?愛国のため?純粋にそれだけの動機だと本心から言い切れるか?今日も我々は押し寄せる情勢不安をひたすら誰かのせいにしながら互いに憎しみをぶつけ合うのである。ほんの僅かな“CURE”を得るその一瞬のために。 【オルタナ野郎】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-09-30 12:52:41) |
15.《ネタバレ》 「黒沢清」という監督の名前を強烈に俺に印象付けた作品。コンクリートの手触りのような…、ひんやりとしてザラザラとした感触…。今まで俺が見てきたホラー(サスペンス)映画とは、まったく異質の“怖さ”を感じたから。俺はタバコは吸わないけど、ラストシーンでの主人公の食後の一服は「ココロの底から」うまそうに見えた。そう思う俺自身が、すでに暗示にかかっているのかもね…(笑)。 【幻覚@蛇プニョ】さん [DVD(邦画)] 8点(2012-06-27 10:19:02) |
14. 時期的に「セヴン」とか「羊たちの沈黙」などのサイコスリラーが出ていた頃ではなかろうか。邦画の水準としてはかなり上質というか、日本映画の良い意味での丹念さもあり、観ていて安心感があった。 安心感とはいっても、決して居心地のいい映画ではない。萩原聖人演じる間宮は、観ていて苛々するほどだし(その意味では成功しているわけだが)、各俳優も大して存在感があるわけでもない。ある意味日本映画というのはこれほど存在感の薄い俳優達によって演じられてきたわけだ。 黒沢清はそういうハンディを意識しつつ、それを逆手にとって映画の画面を構築しているように見える。職人的な監督さんだと思う。少なくともこの時期の、「CURE」のあたりが彼の最も充実した頃なのではなかろうか。 たとえば遠景から間宮が最初に登場する浜辺のショットは俊逸なもので、このあたりで本作がただの思わせぶりなホラーではないということがわかった。つまり職人的な丁重さで作られているなということである。その意味で安心して映画に浸れるという気がした。 しかし上述のアメリカ映画ほどには、残念ながら画面に華がない。ダイナミックさで、どうしても負けるのだ。それは終末部の、病院の廊下の一劃で高部の妻(だと思う)が縛られた異様な姿で映されるシーンなどで、やはり造作のチープさをカバーするためにいささか映す時間が短か過ぎたりとかしている。このような細部を、細かく観ればアラが判然としているあたりが邦画の貧しさとでも言おうか、黒沢清のレベルですらこうなのである。 「CURE」はしかし邦画的水準では高いものだと思う。 【タカちん】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-01-10 09:28:15) (良:1票) |
【はるこり】さん [地上波(邦画)] 8点(2009-10-16 22:26:38) |
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12.《ネタバレ》 サスペンス映画として、とても良く出来ていた作品だと思います。 ですから終盤の難解な展開でも色々自分で解釈したり考えたりするのも悪く無かったです。(最悪なのは展開がつまらない上、訳が分からん映画です) 個人的に好きなのは二回あるファミレスのシーンでしょうか一回目に食事を残し覇気のない役所、二回目は妻の死の後のシーンにも関わらず憑き物が落ちたように心地よく食事している姿は滑稽な程です(これで妻の死は役所の仕業と暗示させる) ラストシーンの投げっぷりはゾッとしますし・・ 二回、三回見てその度に様々な解釈が出来て楽しめたりする映画でした(万人向けかどうかは微妙) 【まりん】さん [DVD(邦画)] 8点(2008-09-15 19:04:17) (良:2票) |
11.正直理解できない部分も多いですがそれでも好きな映画です。 役所さんの過剰にストレスを抱えた刑事の演技が素晴らしすぎます。 【ぎぶそん】さん [ビデオ(邦画)] 8点(2007-02-08 15:43:59) |
10.《ネタバレ》 (自分なりの解釈を書きます。)まず気になったのは “空飛ぶバス”のシーン。現実ではありえません。ですからこの場面は、役所の心の中と解します。最初は奥さんと一緒、2度目はひとり。つまり、心の枷となっていた奥さんを消した(殺した)。次に“病院の地震”。天井の配管が揺れています。萩原が病室の配管に椅子を叩きつけていたことが原因。でもこの程度であれほどの揺れが起こるはずもない。また、非常事態なのに監視役の刑事は無表情。ちょっとおかしい。つまりこのシーンも現実ではなく役所の心の中。ここでの萩原は閉じ込められた自我の象徴と解します。自我が開放を求めて暴れている、と。殺された刑事は、規範・倫理の象徴。自我は解き放たれます。でも役所と刑事(=倫理)は自我を捕まえようと追いかける。そして最重要シーン。役所は廃屋で萩原を射殺します。廃屋は空飛ぶバスが向かっていた場所。ゆえに、ここも心の中です。霧に包まれた林の奥。(注:病院から逃げた萩原を追う役所と刑事が乗る車も霧に包まれていました。本作の霧は“心の中”の暗示では。)萩原いわく、「本当の自分に会いたい者はここに来る」。それは本当の自分(=自我)がここにいるという意味。萩原の催眠にかかっている証拠でもある。そして役所は萩原(=自我)を撃ち殺す。今までの役所は死んだという意味。と同時に、死にゆく萩原から“最期の催眠”をかけられているようにも見えました。これが役所の催眠術スキル取得を表しているのではないか。なおこの後、役所が耳を傾けていた不明瞭な蓄音機の声(多分博士の声)は、内なる心の声。“萩原に代わって皆を癒しなさい”と…。そして驚愕のエンディングを迎えるわけです。ここで注意したいのは、これらのシーンの萩原は全て現実ではないということです。では現実の萩原はどうなったか?役所が“小さな殺意を実行する”催眠にかかっていたのであれば、「悪い社会の一因」と罵った萩原も当然殺したはずです。(うじきの回想シーンで、萩原宅に鑑識が入っていたことからも推測できる。)なお、うじきの場合は自殺。他人の心を覗く仕事に対し、自己嫌悪を抱いていてもおかしくない。殺意が自分に向かった例です。手錠は自らの異常を察知した、うじき最後の抵抗の跡。以上です。相当強引な解釈な気もしますが、黒沢氏の作品は考える楽しみがあります。 【目隠シスト】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2006-10-02 18:31:19) (良:5票) |
9.秀作、つまり本当に気味の悪い作品です。予想外のバッドエンドに驚かされました。所々映像が暗過ぎ、見え難いを通り越して見えない所が有り-1点、うじきつよしの精神科医役に-1点です。 【クロ】さん [インターネット(字幕)] 8点(2006-06-19 05:33:07) |
8.《ネタバレ》 思いっきりネタバレですが、語らせてください。そういう作品なんです(笑) ●「日本においてもヨーロッパにおいても初期の催眠術は魔術であった」ということが何度か言及されていることから、最終的に"伝道師"となった高部(役所)は、限りなく魔術に近い能力を手に入れちゃったんじゃないかな、と思います。最初はあくまで単なる「催眠術師」だったものがいつの間にか「魔術師」になっていく過程は、同時に「サイコスリラー映画」が「オカルトホラー映画」になっていく過程でもあります。タバコの煙程度で他人を"cure"できるようになった高部が、これからも淡々と人々をcureしていくであろうことが暗示されるラストは、この映画以外では見たことがないような余韻を残します。 ●病院の中で刃物を持てる人は限られているでしょうから、高部にcureされた主治医か看護婦が奥さんをやっちゃったんでしょうね。 ●文句なしの秀作です。 【たにゅ】さん [インターネット(字幕)] 8点(2006-06-07 21:53:32) (良:2票) |
7.普通に面白かったです。緊張感もありましたし。キャストもみんな大はまりだったと思います。もう何度も見直しましたけど、みんなうまいな~と心から思える作品ですね。 【書記】さん 8点(2004-06-23 16:18:13) |
6.黒沢清の映画の中で一番おもしろいと思う。 この得体の知れない恐怖。うじきつよしの狼狽っぷりが忘れられない。 荻原聖人、一世一代のはまり役。 【ふくちゃん】さん 8点(2004-06-13 15:02:16) |
5.黒沢清の中では、バランスが良くて雰囲気も好き。 (ビデオ) 【zero828】さん 8点(2004-02-25 21:54:47) |
4.日本のサスペンスは、どれも同じと思っていましたが、これは断然違いました。結末がまったく予測できず、ハラハラドキドキしながら最後まであっという間に見ました。これは面白いですよ~! 【まるこ】さん 8点(2004-02-23 21:49:05) |
3.こういう怖がらせ方があるのかと思った。のどかな陽だまりの中、極めて日常的な中で突然起きる恐怖。僕の好みの映画である。ラストのあの女は何だ?映画は一切言わない。それも怖い。怖い映画だった。 【ひろみつ】さん 8点(2003-11-24 01:15:28) |