1.《ネタバレ》 ポール・ ゴーギャン役にドナルド・サザーランド、顔なども意外に似ているし殆ど憑依感のある演技で、思いのほか没入で見入ってしまう、とても魅力ある作品。自信満々、タヒチから意気揚々と凱旋気分で帰国した頃の短い期間の出来事を中心に描いている。ゴーギャンの性格描写、人となりは、サマセット・モーム作「月と六ペンス」に描かれる、チャールズ・ストリックランドに基準したような印象。
この本はモームがゴーギャンを題材として書いた小説として知られている。「月と六ペンス」の主人公(ゴッホであるとする説もある)は、交友関係に於いてストリックランドから散々酷い目に遭わされおり、怒り心頭の筈の彼が、残していった作品を前に、ナイフで引き裂く積りが、作品に圧倒され押し留まる。ストリックランドの画家として才能を高く評価、敗北感に打ちのめされるという話。ストリックランドを利己的かつ極めて傲慢な男として描写しており、こうした部分の多くが、映画のポール・ゴーギャンに引き継がれており、人物造形に多くの影響、共通点がある。
時期はタヒチ渡航以降の事であり、この映画にはヴァン・ゴッホは全く出てこない。代わりにボヘミアン・グループとの交流から、ゴーギャンとストリンドベリの二人の間で芸術談義を交わすシーンもあったりする、その会話内容も示唆的で実感がこもる。ストリンドベリ役を、同じ出身国スウェーデン人俳優、マックス・フォン・シドーが陰気な顔で演じているのも興味深い。
この映画でのゴーギャンは、主に下宿先の14才の娘の視点で語られる話であって、その点がこの映画のユニークなところかも知れない。彼女は何故か初対面からゴーギャンに強く惹かれる様子で、好奇心を隠さない。浴室のドアをわざと開け、己の裸身を見せつけゴーギャンを誘惑しようとするなど多感な少女。帰国したゴーギャンは絶対的な成功を信じて疑わず、華々しく個展を開くが惨憺たる結果に意気消沈する。
幸いな事にそんなゴーギャンに遺産が転がり込む。離別した妻メットの親族との金銭を巡っての下世話なトラブル、褐色の肌を持つ異国の少女との同衾など、モラル欠如でスキャンダラスな女性関係など、様々なエピソードを通し、破天荒なゴーギャンの人となり、生き方をあぶり出す演出。ゴッホを扱った映画作品は数本あるのに対し、ゴーギャンを単独で主人公とした映画は本作以外しらない。後には嫌悪の対象でしかなかった、妻、メットの生地であるデンマークの映画であるのも興味深い。