1.《ネタバレ》 オスカーノミネートの視覚効果は確かに素晴らしいし、従前より音響へのこだわりの強いピーター・バーグ作品だけあって音の迫力も充分であり、映像体験という点では充実した作品だったと思うのですが、肝心のお話の方がイマイチでした。
利益優先で安全対策を怠った元請けが悪、元請けからの圧力を受けながらも現場でギリギリ頑張る下請けを善とした単純すぎる色分けがかえって問題を軽くしているし、かといって感情移入可能な登場人物も少なく、ドラマはほぼ失敗しています。多額の資金が投じられたプロジェクトにおいて遅延したスケジュールを取り戻さねばならない元請け側の苦悩も描けば社会派ドラマとしても群像劇としても厚みが出ただろうと思うのですが、ほぼ連続で製作された『パトリオット・デイ』と並んで、脚色過程での単純化が失敗した例だと思います。
また、『パトリオット・デイ』もそうだったのですが、ピーター・バーグは現実の事故の被害者全員のドラマを盛り込もうとするものの、その構成力が追い付いておらず、画面上にたまに登場はするが観客の側で情報の整理が出来ていないキャラクターが何人かいるという事態が発生しています。こんなことならば主人公と直接かかわり合いを持つキャラクターのみに登場人物を絞るべきだと思います。
さらには、見せ場におけるスリルの醸成にも失敗しています。事故前、パイプで異常値が出ていることを示すためにいくつかのゲージが大写しにされ、その目盛が上がったり下がったりするのですが、それらが何を示しており、数字がどのレベルに達すると危険なのかという情報が観客に対して分かりやすく提示されていないため、目盛を見ながら観客もドキドキするというこの手の映画でお決まりの展開が全然決まっていません。さらには舞台となる採掘基地内部の位置関係が分かりづらく、誰がどこにいるのか、そしてどの方向を目指さなければならないのかが判然としないため事故発生後のサバイバルアクションも締まっていません。「とにかく上を目指すのだ」という明快な構図を置いた『ポセイドン・アドベンチャー』がいかに優秀な作品であったかが、本作のような出来損ないのパニック映画を見ると非常によく分かります。
真面目な風体ではあるものの、その実態は同監督作の『バトルシップ』と並ぶゆるゆる映画だったように思います。ただし『バトルシップ』は笑いながら見てあげられる映画ではありましたが、本作にはそうした可愛げもない分、評価は厳しめになってしまいます。