36.《ネタバレ》 撃つか、撃たれるかという緊張感ももちろんあるが、それだけではない独特の緊張感溢れる作品に仕上がっている。
強盗団のボスと、貧乏な牧場主という出会うはずのない二人の人生が交錯するという点が面白い。
出会うはずもない男の人生を知り、お互いがそれぞれの人生を振り返っているようにも感じられた。
強盗団のボスのベンは金だけは死ぬほど持っているだろう。
しかし、逃避行を繰り返しているので、もちろん妻や子ども達とともに幸せで安定した家庭などを築けるはずがない。
確かに女には不自由しなくても、それは一瞬一瞬の出会いでしかない。
自分を助けてくれる仲間もいるが、満たされないモノを抱えていたのではないか。
一方、牧場主のダンは妻や子ども達と幸せには暮らしているが、裕福な暮らしをさせることができず、苦労を強いている。
子ども達に父親らしいカッコいい姿を見せることはできず、いつ降るか分からない雨を待ち望むという不安定な生活を送っている。
ひもじく情けない人生に対して疑問を感じているはずだ。
お互いがお互いの人生を知り、自分の人生が果たしてこれで良かったのかと考えたのではないか。
牧場主のダンが諦めずに、あれほど移送にこだわったのは、この点にあったように感じられた。
もしボスを諦めて簡単に逃がしてしまえば、自分の人生を否定してしまうと思ったのではないか。
楽をして金を得ることもできるが、そういう人生を選択することなく、苦労しても貧乏をしても正直に生きるという人生が間違っていないことを証明したかったように思える。
自分の生き様を示すことによって、妻や子ども達にも「間違いではない」と伝えたかったのだろう。
強盗団のボスのベンは、自分の築けなかった家庭を壊すようなことをしたくなかったのではないか。
また、買収にも応じないダンのオトコの心意気にも感じ入ったことがラストの行動に繋がったように感じられる。
二人の苦悩、そして二人の生き様が見えたような思いがした点を評価したい。
計算し尽くされたムダのない脚本・演出も見事である。
意味のないように見えて、見終わってみると、何もかも全てが繋がっているように感じられるレベルの高い作品だ。