6.《ネタバレ》 20年以上前の作品なのにも関わらず、全く色褪せない。
今でこそ実感する文明社会の病理を題材にしたハネケの先見性には驚かされる。
今と比べればまだ荒削りではあるが、既にスタイルが確立しており、実験的で挑発的だ。
何せ冒頭10分まで家族の顔を一切見せないのだから。
この地点で閉塞的でモノに支配されている家族の肖像が浮かび上がる。
繋ぎ目に挟み込まれる居心地の悪い黒い間、効果的に登場する数字(=規則性の暗喩か)、
モノや人付き合いのしがらみから解放されたい家族の渇望を表しているようだ。
そして家族は決行する。顔を映さないまま、家具やレコードや衣服を黙々と破壊していく。
紙幣を便器に捨てるシーンからしても我々が如何にモノに支配されているか分かるもの。
虚栄とモノに満ち溢れた世界を破壊する背信的なカタルシスがここにある。
水槽を破壊して娘が悲しんでいるところでハッとしていれば、まだやり直しができたはず。
もう後戻りは出来ない。
何も映らないテレビの砂嵐の先にあるのは、黄泉の世界なのか、"無"なのかは誰も分からない。
自殺するだけならまだしもモノを破壊する理由も誰も分からない。
文明社会は本当に人々を豊かにさせたのか?
それでも虚無感を抱えながら、社会を維持し続けるために"奴隷"を演じ続けるしかないのだろう。