72.《ネタバレ》 アン・リー版から方向転換を図り、アクション重視にすることについては、戦略的に全く問題がないと思う。
「ハルク」になったプロセスをものの数分で描いたのは、アン・リー版の反省がみてとれる。
ただ、これではあまりにもストーリーをないがしろにしすぎではないか。
本作は「軍隊に追われていた男と、暴走した一人の軍人が、化け物に変身して戦う」というストーリー以外に何もない。
本当に、ノートンがリライトしたのかというほど、つまらない脚本となっている。
彼が手を加えたのならば、ひょっとして間違った方向に手を加えたのではないか。
アクションなのだから、深いストーリーは要らないのかもしれないが、肝心のアクション自体も画面に釘付けになるほど立派なものではなく、全く楽しむことができなかった。
「ボーン」シリーズ、「キングコング」辺りのネタを拝借しているようにも感じられ、つまらないと言われるアン・リー版の方がむしろ個性を感じられる。
アン・リー版のジャンプ時の浮遊感は必見だ。
肝心の化け物同士の戦いも、一方が圧倒的に優勢だったのに、訳の分からない地味な必殺技一発で形勢逆転するというつまらない描き方には呆れた。
逆転の仕方や、必殺技など、バトルシーンにもうちょっと工夫があってもいいだろう。
また、ノートン、タイラー、ティム・ロスといった役者の個性も全く活かすことができておらず、誰に対しても共感できるものではなかった。
三人のそれぞれの感情が、あまりにも伝わってこないのは評価できないポイントだ。
本作の唯一の見所は、「ハルクが中和されて素の人間になりかけた」というシーンではないか。
その見所をヘリコプターから飛び降りただけで終了というのはあまりにもヒネリがなさ過ぎる。
「ハルク」は怒れるオトコなのだから、もっと“怒り”に着目して欲しい。
いったんは中和されて、心拍数200を超えても変身しないが、彼の怒りが頂点に達したときに再び緑色の化け物になるというのが当然のスジではないか。
そのために、タイラーという存在がいるのだろう。
彼女が殺される(変身できない彼をかばって死ぬのが悪くない描き方)、もしくは彼女の身に危険が迫ったときに、怒りで我慢できなくなって再び変身するという描き方はできないものか。
重厚感がなく、何もかも薄っぺらく感じてしまった。