36.《ネタバレ》 家族というものをじっくり描いた、静かでじんわりくる作品。
誘拐で子供を失った家族に生じた歪みがリアル。
最近どこかで似たような設定の映画を観たなと記憶を辿ったら『八日目の蝉』もそうだった。
生みの親か育ての親かというのは、昔からよく扱われたテーマでもある。
弟が発見されて戻ってきても、9年間の空白はあまりにも大きかった。
弟が育ててくれた男の元に戻りたがったのも無理はない。
誘拐犯だった女が自殺して、残されたものは誰も悪くない善人ばかり。
犯人が起こした不幸ではあるけれど、女も子供を失う不幸があった。
誘拐しても結局心の隙間が埋められずに自殺してしまった、悪人というよりも悲しい人。
不幸な出来事ですべての歯車が狂っての軋轢がもどかしい。
子供を喪失して崩壊状態だったカッパドーラ家は、もがきながらも再生の道を探る。
ベスは夫に愛して欲しかったし、兄は母に愛して欲しかった。
もちろん当人は愛しているつもりだけれど、いろんな事情にとらわれてそれが疎かになり、伝わっていなかった。
愛情不足でできた隙間は、愛情で埋めるしかない。
そんなメッセージが聞こえてくる王道のホームドラマ。
兄は何をふてくされているのかとガキっぽく見えたが、あの年頃だとそれが普通か。
むしろ、そんな兄を素直に受け入れる弟が出来すぎている気もする。
そうでないとドラマが収拾しなかっただろうが、兄弟のどろどろとした葛藤が続いても不思議ではないところだ。
あくまで子供の頃のよくある兄弟ゲンカとして仲直りしたのが微笑ましかった。
違和感を感じたのは、犯人の夫が意外と被害者家族に強気で、子供の扱いについて責めるようなことも言っていたこと。
誘拐のことは何も知らなかったとはいえ、身内の犯罪なのだから日本的な感覚でいえばもっと低姿勢で当たり前のところで、その辺はお国柄の違いだろうか。
弟がカッパドーラ家に戻るにあたって養父との別れのシーンがなかったが、そこはちゃんと描いて欲しかった。
カッパドーラ家にとってはハッピーエンドだけれど、養父にとっては厳しく寂しい結果でもあるので気になった。