12.なんとも妙な映画だった。
どうやら撮影後に大幅なカット・編集を余儀なくされたようで、監督が想定していたストーリーテリングが出来なかったらしい。
ラストの顛末も大きく改変されたらしく、ストーリー的にはなんともちぐはぐで、サスペンスを主軸にしている以上、それが大きなマイナス要因になってしまっていることは否めない。
監督のデヴィッド・エアーにとっても、主演のアーノルド・シュワルツェネッガーにとっても、「不運」な映画になってしまっていることは間違いない。
ただし、だからと言ってこの映画、決して駄目な映画ではない。
手放しで「面白い!」と言える映画ではないけれど、随所に「面白味」はあり、「苦味」や「雑味」も含めて、特徴的な「味」は確実にある映画だと思える。
勿論、好き嫌いは大いにあるだろうけれど。
紛れも無い傑作になり得た可能性も大いに感じるからこそ、監督と主演俳優にとっては「不運」だったと思うのだ。
今作を語るにあたって特筆すべきは、結局のところ、アーノルド・シュワルツェネッガーだと思う。
往年の大アクションスターが、実人生での栄光と挫折を経て銀幕の世界に出戻ってきてはや数年。
復帰後の主演作品については、世間的に見ると賛否両論といったところのようだが、個人的には完全に“賛”に振れている。
当然ながら、アーノルド・シュワルツェネッガーにかつてのようなアクションスターとしての輝きは無い。風貌は完全に老いているし、若かりし頃の絶対的な無双感は消え去ってしまっている。
しかし、今のシュワルツネッガーには、それらの「喪失」を礎にした一俳優としての渋味が滲み出ている。
だから、映画自体の完成度の程度を度外視して、彼の存在性そのものに対してある種のエモーションを感じてしまう。
そして、その自らの現在の俳優としての在り方を的確に理解しているからこそ、復帰後のシュワルツネッガーの作品選びは、意外性がありつつも、決して間違ってはいないと思える。
今作の本来の結末は、もっと物語の性質に即したダークなものだったらしい。
主人公のキャラクター性とその到達点も、きっともっと限りなくブラックに近いグレーな色味を見せたに違いない。
それを演じきった“闇”にまみれたアーノルド・シュワルツェネッガーを観てみたかった。