《改行表示》130.《ネタバレ》 イーストウッドの映画はいつも簡潔。ただそこにあった戦争を描く、それだけ。 そこには政治や国家や思想の姿も見えず、見えるのは人間だけ。正解なんて無くて、人間同士が殺し合いをしているという現実があるだけ。 子供が人殺しをしようとする現実、その子供を殺す現実。 160人を殺し英雄となった現実、その英雄を殺したのは、イラク人ではなくアメリカ人だった、それも現実。 果てる事のない戦いの中にはためく星条旗、その積み重ねられた歴史の背後にあるのは英雄達の築いた栄誉なのか、それとも戦争の名の元に失われていったものの悲劇なのか。 そこに答えを求めたところで、答えなんて元からありゃしません。 エンドロールの無音部分に、どんな音が聴こえたか。この映画にもし正解や答えがあるとするならば、その音の中にあるのかもしれませんね。この映画を見た人、個々人の中の答え。 【あにやん🌈】さん [映画館(字幕)] 9点(2015-02-22 00:24:43) (良:5票) |
129.《ネタバレ》 「戦地ではアメリカ兵が毎日死んでるのに、ここじゃ誰もそれを話さなさい。戦争自体ないみたいだ。みんな、自分のことしか考えていない。向こうじゃ戦争やってるのに、みんなケータイ使ってのほほんと暮らしてる。ここじゃ俺は場違いだ。君がなんと言おうと、仲間のために俺はイラクへと戻る」「ねえ、あなた、これは私たちの問題よ。あなたの血圧は普通のときでも170/110もあるのよ。これは異常よ。ねえ、身体だけじゃなく、心も帰ってきてほしい。もう、イラクには行かないで、お願い、子供のために…」――。アメリカ、テキサス州。生まれ育ったその地で、ロデオやデートとただぼんやりと毎日をやり過ごしていた青年、クリス・カイル。だが、ある日、テレビのニュースでテロ直後の映像を見て衝撃を受ける。「国のために尽くしたい」。天啓を得たように、彼はすぐさまアメリカ軍随一の精鋭部隊シールズに入隊するのだった。厳しい訓練を乗り越え、有望な狙撃者となったクリスは、妊娠したばかりの妻を残し、イラクへと派遣される。来る日も来る日も敵を、時には女子供の命でさえ奪い続けてきた彼は、いつしか同僚から〝レジェンド〟と呼ばれる英雄になるのだった。だが、そんな異常な日々を生きてきた彼の精神は徐々に蝕まれ、次第に妻との関係もギクシャクしてゆく…。実話を基に、イラク戦争で幾多の敵の命を奪い続けてきた英雄的スナイパーの生き様を重厚に描き出す戦争ドラマ。名匠イーストウッド監督の、実話を基にしながらもちゃんと観客の胸を打つ物語として再構築してみせるその優れた演出手法はもはや神懸り的ですね。映画が終わり、無音のエンドロールが流れるまでの2時間強の間、緊張感を一切途切れさせずに見せきるその手腕は見事としか言いようがありません。特に、主人公の好敵手となるスナイパー、ムスタファとの息詰まるような心理戦はそんじょそこらのエンタメ映画よりドラマティックで素晴らしかったです!まるで自分も何度もイラクへと派遣されたような気にさえなりました。でも、そこはやはり『ミリオンダラー・ベイビー』や『グラントリノ』を撮ったイーストウッド監督、手放しでアメリカを礼賛するわけでもなく、戦争の負の側面を徹底的に強調する反戦映画とするわけでもない、そのストイックなまでに冷徹な姿勢は深く考えさせられるものがあります。兵士が戦わなければテロリストはテロを繰り返すだろうし、世界各地で行われる残虐行為もなくならない。誰かがやらなければいけない。でも、正義と信じていたアメリカ兵もいつしか非人間的な行為へと染まっていく…。そして、帰国し家族とともに幸せに生きることを選んだ彼を待ち受ける非情な運命…。答えなど永遠に出ない問題に翻弄される人々の苦悩を、この老監督は慈悲深く見つめています。とても優れた物語でした。8点。 【かたゆき】さん [DVD(字幕)] 8点(2016-04-06 22:33:39) (良:2票) |
《改行表示》128.《ネタバレ》 この映画の謳い文句によると、主人公クリス・カイルは「アメリカ軍史上最多160人以上を射殺した伝説のスナイパー」とある。が、「狙撃兵(スナイパー)」ではないものの、ひとりの兵士として敵兵を最も多く射殺した者といえば間違いなくオーディ・マーフィーだろう。そしてかつてドン・シーゲル監督は、この第二次世界大戦の英雄で後に西部劇スターとなったマーフィーを、『ダーティハリー』の連続殺人鬼である「狙撃犯(スナイパー)」“サソリ”役に起用しようとしたらしい。「なぜなら、彼は本物の大量殺人者だから」と。 この『アメリカン・スナイパー』におけるクリス・カイルは、中東で紛争が起こるたびに志願して戦場へと出かける。それは義務や使命感という以上に、“仲間を助けるために敵を殺す”という、単純にして彼にとっては絶対的な「倫理観」ゆえだ。しかし、ミサイル砲を手にした少年に照準越しに「それを捨てろクソッタレ!」と毒づく時、彼は自分が少年を「殺したがっている」ことに気づいたのだ。「殺すこと」そのものが、自分のなかで目的化(!)したことに気づき、だから愕然としたのだ。だからその後、家族のもとに帰還したクリスがどこか“不穏”なあやうさを漂わせ、これが実話であることを忘れてぼくたち観客は、彼による決定的な「カタストロフィ(悲劇)」の予感(予兆?)におののきながら固唾をのんで見守ることになるのである。 もちろん、実際は帰還後のクリスが「殺人鬼」になることはない。むしろ彼は、同じ帰還兵の手によって不慮の死をとげる。だが、この映画を見てきた僕たちは、彼を殺すその帰還兵とはもはやクリス自身のアルターエゴ(別人格)というか“もうひとりの自分”に他ならないことを確信する。そしてその時、これがドン・シーゲル監督が『ダーティハリー』でひそかにもくろんでいた〈主題〉を、そこで主演俳優だったイーストウッドが今度は監督として継承し完成させたものであることを、ある感動とともに深く納得するのである。ーー狙撃犯の“サソリ”と、狙撃兵のクリス。つまり彼らは、ともに「アメリカン・スナイパー」に他ならなかった・・・。 こうしてぼくたちは、底知れない“闇(=病み)”を抱えたイーストウッド的主人公像を前に、またも震撼させられることになるのだ。 【やましんの巻】さん [映画館(字幕)] 10点(2016-03-29 13:38:19) (良:2票) |
127.《ネタバレ》 とんでもない映画でした。内容については他のレビュワーさんに任せるとして、私が最も衝撃を受けた場面について書こうと思います。私が何よりも衝撃を受けたのはエンドロールでした。最近のハリウッド映画で無音のエンドロールは記憶にありません。イーストウッドは作曲もこなす天才ですから、鑑賞後の観客にどのような音楽を聞かせるのかを理解しているはず。それなのに無音なのです。「観客に考えを促しているのだろうか」とも思いましたが、ひょっとしたらあれは「4分33秒」だったのかもしれないと思ったのです。エンドロール中の場内の雑音も映画の一部であると。そそくさと席を立つ人、時間を確認するためにスマートフォンを確認する人、じっとスクリーンを見つめる人。これだけ衝撃的な内容の映画を見て、あなたの周りの観客はどのような行動を取っているのかということまで踏まえた上で考えろ、とイーストウッドに言われたような気がします。ずっしり重い映画でした。二度と忘れられない映画体験をさせてもらいました。イーストウッドには1本でも多くの映画を残して欲しいです。齢84にして離婚理由が女性関係だったのですから、まだ大丈夫ですよね。 【カニばさみ】さん [映画館(字幕)] 9点(2015-02-25 19:53:36) (良:2票) |
《改行表示》126.クリス・カイルという人物の実人生の最終的な“事実”を知らぬまま、今作を観たので、映画のラスト、敢えて感情的な表現を排除して描かれた「顛末」に対して、虚をつかれた。 そして流れる「無音」のエンドクレジットを目の当たりにして、しばし呆然としてしまった。 このあまりに印象的なエンドクレジットにクリント・イーストウッドが込めた思いとは何だったのだろうか。 戦場の内外で命を落としたすべての人たちに対する鎮魂か、それとも戦争という愚かさの中で生き続ける全人類に対しての無言の怒りか。 いずれにしても、その「無音」の中に何を感じるかということを、この映画は観客に対して問うているように思えた。 この映画は、本国アメリカにおいて政治的な両極端の立場の人たちから、それぞれの思想において賞賛され、また批判されている。 それは両極の者たちが、あまりに利己的に自分の考えをこの映画に重ね合わせ、都合よく解釈している結果だろう。 ちゃんとこの映画を観た人ならば極めて容易に理解できることであると思うが、監督がこの映画に込めたものは、戦争の正当化や戦意の高揚でもなければ、安直な戦争批判でもない。 これは、現在のこの世界に生きる一人の男の「運命」の物語だ。 一人の男が、アメリカという国に生まれ、父親に育てられ、成長し、愛国という名の正義に盲進し、妻となる女性を愛し、戦場に立ち、子を授かり、また戦場に行き、人生に苦悩する話だ。 その一人の男の虚無的な瞳の中に如実にあらわれた戦争というものの真の様。 それは、正義も悪もなく、“それ”を起こした「世界」に対する罪と罰だと感じた。 「敵国」とされる側のスナイパーにも、主人公同様に家族がいるのだ。 この映画で描かれた「事件」が発生してから僅か2年、製作期間としては実質1年余り。 そのあまりに短い期間で、これほどのクオリティーの戦争映画を撮り上げてしまうクリント・イーストウッドという映画人は、その信念の強さもさることながら、やはり「映画」そのものに愛されていると思わずにはいられない。 そして、この映画の「現実」が今なお続くこの世界の“日常”だからこそ、完成を急いだ製作陣に賞賛を送りたい。 【鉄腕麗人】さん [映画館(字幕)] 8点(2015-02-21 21:43:18) (良:2票) |
《改行表示》125.クリント・イーストウッド監督のいつもの重いやつ。 個人的にはあんまりこの手の重い作品、得意じゃなくて…。 内容の割りに冗長で、消化不良感。 山場を迎えた後もだらだらと低調で続くのがつらい。 終わり際を見失った頃に、脈絡のない突然の閉幕という腑に落ちなさ。 事実は事実として、映画としての見せ方が何とかならなかったか。 主人公の心の変遷の表現不足とか、弟の話が投げっぱなしとかも。 例の事件とはいえ、アメリカ至上主義・絶対的正義がやや鼻につく。 あと、やっぱり「殺し合い」の映画は見てて気持ちよくない。 後味が悪く、消化不良感で、スッキリせず、重い。 もっと胸を打つ感動が欲しかったです。 救いは、無い。 【愛野弾丸】さん [CS・衛星(字幕)] 5点(2020-03-22 21:28:06) (良:1票) |
《改行表示》124.《ネタバレ》 凄惨な戦場での体験が退役後も兵士の心を蝕むというテーマの作品はこれまでいくつも観てきました。主人公らは皆心を再生不能なまでに壊され、その再起のいかに困難なことかを思い知らされるものが圧倒的に多かった気がします。 本作の主人公カイルは伝説のスナイパー。160人を殺めてきた彼もPTSDに悩むことになりますが、回復がかなり早く描かれているのにちょっと驚きました。このことは彼が幼少の頃から受けてきた「番犬であれ」という教育が大きく影響しているのかなと思いました。番犬たること、「悪」である狼を退治することは神の意に添った「善」である。この岩のような信念がカイルをして「人殺しの理由を神に説明できる」と言わしめ、心の回復を早めたのでしょう。そしてこの「米国は世界の警察」な意識はアメリカ人の平均的な考え方であるとずっと感じてきたことでもあります。自らの価値観を善だと信じ、他国の紛争に手出し口出ししてきた結果、大使館爆破も9・11も誘発したのだとは彼らは考えない。同胞が攻撃されている、そのショッキングな映像に奮い立ち、戦場に自ら向かうクリスは極めて普通の感覚のアメリカ人です。 しかし非米国人の私は、他国の兵士に家に踏み込まれ、あげく凶暴なテロリストらに蹂躙されるイラクの一般市民の痛みの方に強く共感します。戦地で生きる市民にとって、禍の度合いはテロリストも米軍も大差ないのだよと冷徹に描かれており監督のフラットなバランス感覚がうかがえます。 けれど人間が戦場で心を喪うということ、その惨たらしさについてはイーストウッドといえども同テーマの他作品より抜きん出ているとは言い難く、平均的な出来の作品と思いました。 【tottoko】さん [DVD(字幕)] 6点(2019-03-16 15:17:32) (良:1票) |
《改行表示》123.《ネタバレ》 戦場とアメリカの日常が、電話を通じて隣り合わせに存在している。 っていうのがあって、で、映画の最後の方、日常に戻った主人公が、銃を子どもの前で手にしている場面、その銃は本物なのかオモチャなのかはわからんけど、とにかくこの場面が、不安で、コワい。 銃を棚において、ようやくホッとするのだけど、結局は悲劇が待ち受けている。 この不安と虚しさに、つきると思う。 【鱗歌】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2018-08-08 22:00:55) (良:1票) |
《改行表示》122.《ネタバレ》 子供も含めて160人を撃ち殺した男がヒーロー扱いされる映画、と書いたら本作を批判しているみたいですけど、そんな意図はありません。おそらく主人公は戦闘技能を除けばとても平均的なアメリカ人であり、周囲も含めてアメリカ人の気質を描いた作品だと思いました。 そのアメリカ人気質とは、まず「身内が被害を受けて、初めて本気で取り掛かる」です。本作の被害は911の同時多発テロ。ここで云う身内とは家族・友人に留まらず、米国民がひと括りに身内です。そして、本気になったアメリカはいつも強大であり、同時にとことん残酷にもなれる。身内を守るためなら子供だって撃ち殺す。パールハーバーも同様でした。原爆さえ投下する。それがアメリカの大義と正義の行使です。 戦地に行かない者は狙撃手が分かりやすい成果(160人!)を示したことで彼を称えます。身内を守ってくれるヒーローです。彼の死もヒーロー像を際立たせるイベントになります。これもアメリカ人気質。ヒーローを持ち上げたがる国民性ですかね。 主人公はヒーローになろうと参戦した訳ではありませんし、彼を戦地へ送り出す奥さんにとっては迷惑な評判です。子供に対して引き金を引く際の逡巡も丁寧に描写されます。あたり前ですが、ヒーロー像と実物にはギャップがあります。そんな主人公と周囲の人たちが醸成する物語は、私には普通のアメリカ人たちを描いた映画と映りました。アメリカの対テロ戦争をプレーンな視点から描いているとも思いました。 この映画は何も主張していませんし、戦争に関わる事象の是非を問われるている印象も持ちません。何を想うかは観た人に任せるというメッセージだけは、無音のエンドロールから強く感じました。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(字幕)] 6点(2017-01-16 02:17:20) (良:1票) |
《改行表示》121.《ネタバレ》 中途半端。ドラマがない、見せ場がない、訴えたいものがない。 製作者は戦争に行く兵士の家族の苦悩を描きたかったそうだけど、全然ダメ。そもそも奥さんって、相手がプロの軍人って分かってて結婚してるんでしょ?それで戦争に行くな、だの、戦争のことは忘れて家族を大事にしてくれだの、ちょっと自分勝手なんだよな。死体で戻ってくる人がたくさんいるのに、怪我すらなく帰ってくるだけでも喜ばないと。 家に帰ってうじうじしてる主人公と、うるさい奥さんのシーンは見てて苦痛なだけ。戦場に戻った時の方がほっとする。 後半の不自然な点も目立つ。戦争から戻ってきても、心あらずだった主人公が、突然いつもの明るい彼に戻って、奥さんもご満悦の様子。でも彼に一体何があったの!?退役軍人の病院で他の患者に会ったらあっさり治った?描き方が軽いなー…。 終わり方も尻切れトンボのようで。締めくくる何かを入れてないから、「いつもの明るい彼に戻りましたよ」で終わっちゃってるよ。誰かに殺されて葬儀シーンが最後に流れるけど、あんなのストーリーにカウントできないレベルだし。 あとは、アメリカンスナイパーとか言いながら、スナイプしてるの、最初の30分と最後だけだよね…。 【椎名みかん】さん [DVD(吹替)] 5点(2016-10-15 02:19:45) (良:1票) |
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120.《ネタバレ》 戦争で変わっていく旦那の変化に耐え切れない妻は嘆き責める。結構これがウザいのだが、なぜか最後の帰還を果たしてから態度が軟化する。旦那が病気である事に気付き、献身的になるのだ。回復し、今度は彼自身が苦しむ帰還兵のために献身する。ド派手なガンアクションと緊迫した狙撃戦ののち、こうしてこの映画がヒューマンドラマである事に気付かされる。イーストウッドさすがである。終盤の脱出劇でも十二分にミリタリーアクション映画として楽しめる、優れた戦争映画。 【にしきの】さん [CS・衛星(吹替)] 7点(2016-06-01 05:40:34) (良:1票) |
《改行表示》119.《ネタバレ》 狙い研ぎ澄まされていたはずのイーストウッドの照明、音、その他演出諸々が若干スベっているのでは、というのが第一印象。“フルメタルジャケット”を彷彿とさせる訓練シーンでは、虹が映ったり、西日が差し込むなど、いささか綺麗に撮られ過ぎてはないだろうかな。と思いきや、炎の揺らめきの陰影はやや甘い感じ。追いかけるのが主体のカメラ使いなのですが、待ちがなければ、スナイパーとターゲットの距離感が掴めない。ここら辺のサスペンス感も欲しかったところではないかな。 ただ、奥様の陣痛のタイミングはいいって思いました。 戦争映画という陥穽に陥ってはいないのは明々白々であって、やっぱり、そうだと決め付けるのはやや早計といったところ。山があったから山に登ったと登山家は言いますが、蛮人がいるから、スナイパーは蛮人を撃つとは言い切れない。映画的な要素を犠牲にしたとしても、そのバックボーンと煩悶と苦悩を描くあたり、クリス・カイルの敬意を最優先したのかと勘ぐってしまいます。 【うー】さん [ブルーレイ(字幕)] 5点(2015-11-08 13:16:08) (良:1票) |
118.《ネタバレ》 冒頭で父親がクリスと弟に言った、「人間には羊、狼、番犬の3種類がある」という言葉を頭に入れながら鑑賞した。テロリストが狼ならその犠牲になる弱い民衆が羊。そしてそのテロリストを駆逐するアメリカ軍が番犬である。しかし民衆の立場から見ればテロリストもアメリカ軍も「狼」に見えるのではないだろうか。アメリカはテロリストを軍事力で排除してきたが、その代償として多くのイラクの一般市民が空爆の巻き添えなどで犠牲になっている。そして立場に関わらず戦争の当事者誰しもが簡単に「羊」となり得てしまう。そんな理不尽さが戦争なのだろうと思わされた。また、普通に娯楽作品としても面白く、特にライフルのスコープを覗き込む場面は観ている自分も思わず画面を息を止めて覗き込んでいた。メッセージ性・娯楽性がバランス良くまとまった良作だと思う。 【mickey】さん [DVD(字幕)] 8点(2015-08-31 18:27:42) (良:1票) |
117.《ネタバレ》 強烈な反戦映画。子供も容赦なく殺されるだけでなく、子供が人を殺そうとする地獄。クリス・カイルが超長距離のスナイプを成功させたのち、妻に電話をかけ半泣きで「ウチに帰る」ともらすシーン。そこにいたのは愛国心に燃える英雄でも家族を思う父親でもない、ただ眼前の恐怖から逃れんとする一人の人間でした。ただのカウボーイにあこがれる善人だったが、愛国心を持っていたがために地獄に叩き込まれ、背負いきれないほどの業を背負わされたカイルが不憫でかわいそうで、たまらなかった。 【bolody】さん [映画館(字幕)] 9点(2015-08-02 21:25:48) (良:1票) |
116.《ネタバレ》 観終わった後の率直な感想が、あれ?イーストウッドなのにこんなものか?というものでした。戦争ものなのでまた重いテーマを掲げた映画かと思いつい身構えてしまいましたが戦争ものという視点で見ると特筆すべき点はなし。そうではなくてクリス・カイルという一人の男の物語として観るのがこの映画の正しい観方。4度の派遣を生きぬきPTSDも回復した男が自国で同じ退役軍人のアメリカ人にあっさり殺されるラストが空しい余韻を残します。奥さんが「やるからには良い映画にして」と伝えたそうですがクリス・カイルという一人の男の存在が広く認知された本作が残された家族のためになればそれだけでもこの映画の価値はあったのではないのかなあと。作中でカイルが190kgのハーフデッドリフトを行っていますがあれは実際にブラッドリー・クーパーが挙げたそうです。20kg程の増量で軍人役にしてはえらく脂肪が目立つなあなんて思いましたがその役作りには賞賛を送りたいです。ハングオーバーのときより明らかにでかい(笑) 【ケ66軍曹】さん [DVD(字幕)] 8点(2015-07-29 14:02:38) (良:1票) |
115.実在した人物をモデルにしているわけだが、一にも二にもブラッドリー・クーパーの役作りが光る作品。ラストに実物の写真が出てくるが、劇中のクリスと違和感がほとんど感じられなかったくらいだ。内容はイラク戦争を舞台に「戦争がいかに生身の人間を壊していくか」という古くて新しいテーマに沿って描かれており、その点は「フルメタルジャケット」にも描かれているし、近くは「ハート・ロッカー」にも似ている。敵地で包囲される近代戦の恐怖としては「ブラックホーク・ダウン」にも既視感がある。その意味でとりわけ新しいメッセージは感じられなかったわけだが、最後まで緊迫感を失うことなく物語を展開させ、意外な結末で終わりを迎える構成にはそれなりの見応えがあった。 【田吾作】さん [ブルーレイ(字幕)] 7点(2015-07-13 16:17:42) (良:1票) |
114.《ネタバレ》 原作はクリス・カイル自身の手記だそうだ。その中で本人は戦争で活躍したことを自ら肯定している。アメリカではこの映画をクリス・カイルを英雄扱いした戦争賛美の映画だと多くの人がとらえ、この映画の賛成派と反対派が大きくぶつかっているらしい。が、しかし、実際に映画を観ればわかるが、この映画では主人公を単に英雄視ししてない部分が多く描かれている。不穏なBGM、女性や子供を最初に撃ち殺す不気味さ、敵役であるブッチャーやムスタファを殺すシーンになんのカタルシスもあたえない表現、特にムスタファには妻と子供がいるシーンも描かれ、彼が主役の写し鏡であるようにも描いている。この二人の敵役は映画だけの脚色である。そして帰国するたびの彼のふるまいにおいては、うわー、壊れてるなーとしか思えない数々の言動。ちょっとした音に反応するのは当たり前で、泣いている赤ちゃんを見て、ほっとかれていると思い看護師に叫びだしたり、犬が子供とじゃれているのを見て、子供が襲われてると思いこんで、犬に殴りかかろうとしたり、怖いよまじで。監督のイーストウッドはイラク戦争反対の立場の人間であることからも、少なくとも英雄扱いの戦争賛美でないのは明らかである。だから手記に大きく脚色をいれている。じゃー、なんでアメリカでそんな感じになっちゃってるのか、僕はイーストウッドが映画人として、退屈な映画にしないようにちょっとサービスしすぎたんじゃないかなと思う。だから見ごたえはあるのだが、正直、僕は観終わってから、特になんの感動もえられず、虚しさだけが残った。ただ色んな物議をかもす作品であるのはなんとなくわかる。ちなみに海外へ派兵した自衛隊の中にもPTSDの発症者はいる。そしてイラク戦争は、最悪のイスラム国を生む結果を残した。 【なにわ君】さん [DVD(字幕)] 7点(2015-07-09 04:08:08) (良:1票) |
113.核兵器があるおかげで大国同士の全面戦争はなくなったが、こういう風な局地戦はこれからも続いていくんだろうな。これは一見アメリカの英雄を称え国威発揚させる映画に見えて、アメリカ国民に厭戦気分を味あわせる映画だと思った。 【Yoshi】さん [映画館(字幕)] 6点(2015-03-06 10:15:12) (良:1票) |
112.《ネタバレ》 ホーチミンの戦争証跡博物館で、ベトコンと誤認されて米兵に撃たれ道に倒れた少年を撮った写真のキャプションに、「そして上官は"Finish him"と言い捨てた」とあった。弟をいじめたガキ大将に馬乗りになってボコボコにするのもfinish、アルカイダを壊滅させるのもfinish。「悪を駆逐し自分と家族を守るためには容赦するな」という教えを、父親からも国家からも叩き込まれ続けた主人公。ベトナム戦争末期に生まれ、父親から銃の手ほどきを受けたクリスが、イラク戦争のさなかに生まれた息子にやがて銃を持たせる。結局、人間は戦争から何も学んでいないことを象徴するストーリーだと思います。凄惨ながらも淡々と進むタイムライン描写の中で主人公の心が蝕まれていく過程はわかりやすいのですが、仲間の「仇討ち」や、最後の葬儀パレードに象徴される主人公の「神格化」といったアメリカ人好みの要素は、それを決して鵜呑みにするなと、イーストウッドが無音のエンドロールでその意を観客に問うているように思うのです。映画化決定後に原作者が殺され、それから2年も経たないうちに完成、裁判の行われている最中に公開しちゃうのもすごいけれど、時を同じくしてISISの暴走がエスカレートし、人びとの憎しみが「戦争」でなく「敵」に向いてしまうことを危惧します。 【km】さん [映画館(字幕)] 8点(2015-03-02 21:40:30) (良:1票) |
111.《ネタバレ》 相変わらずこの監督の作品は重い。日常と戦場の比較。そして徐々に音を立てずに崩れていく精神。劇中でも語られるように日常の生活をしているにとって所詮戦争は絵空事。エンドクレジットが流れれば日常に戻り何日後かにはそんな体験も薄くなって行く。そんな人たちに皮肉さをぶつけたかのような無音は心に重くのしかかる。 【とま】さん [映画館(字幕)] 8点(2015-03-02 19:28:31) (良:1票) |