90.《ネタバレ》 冒頭、エマ・トンプソンの気品と迫力溢れるモノローグで、一気に作品に引き込まれる。職務に忠実であることを至上命題とする(しかし、それに嫌味がない)執事と、理知的でありながら自然に内面を表している女中頭の、無言の心理攻防戦。本を取り上げようとするシーンの一瞬の接近がもたらす官能性と、ホプキンスの冷たい一言にエマ・トンプソンが涙するシーンがもたらす感情の重さ。これこそ名演だと思う。さらには、音楽や美術や照明関係の充実も素晴らしく、まさに作中の使用人たちのような職人芸の誇りを感じさせる。つまり、この映画そのものが、私たちにとってのダーリントン・ホールなのだ。 【Olias】さん [DVD(字幕)] 9点(2006-01-23 00:49:41) (良:3票) |
《改行表示》89.《ネタバレ》 過ぎ去ってしまった日々はなんて美しく尊いものなのでしょうか。普通は何十年も後にしか分からない感慨を、たった2時間のドラマの中で体験できたことに感謝です。 本作において、スティーブンスの執事としてのルールは、はっきりしています。そのルールの中でも核になるのが、「使用人同士の恋愛をしてはならない。」「執事は主人とそのお客様に対して、個人的な意見を言ってはならない。」の二つでしょう。その二つのルールを徹底しているだけなのに、そこに崇高な志を持った執事の姿を見ることができるのです。 ただ、スティーブンスはやはり生身の人間でもあります。彼が感情のある人物であるということを素晴らしいくらいに第三者の視点のみで描いているところにこの映画の魅力がありそうです。 個人的には、映画が原作を越えられることはまれだと思っています。なぜなら活字で表現できる心理描写というものを映像で描いていくことには限界があると思われるからです。ですが、この映画は心理描写を登場人物たちの台詞や表情、仕草を通してかなり的確に表現できているのではないでしょうか。まるで小説を読んでいるかのような味わい。それがこの作品にはあります。 スティーブンスは2回ほど、プライベートと公務において同時に選択を迫られるシーンがあります。一度目は大事な会議の最中に、父親が亡くなるシーン。二度目はダーリントン卿とナチとの密会の最中に、ケイトンが結婚の報告をするシーン。 まさにスティーブンスがプロとしての資質、執事としての在り方を問われる本作でのハイライト。そしてスティーブンスの選択、行動、振る舞いに、僕はただただ深い満足感を覚え、充足感に満たされるのでした。 【たきたて】さん [DVD(字幕)] 9点(2013-06-30 15:32:31) (良:2票) |
88.《ネタバレ》 人は自主独立でなければならない、という現代の空気の中で、でもけっこう「執事願望」ってのもあるんじゃないか。選んだり考えたりする責任を逃れた、歯車の安楽。もちろんそれは孤独という裁きを受けるのだけれど。父の死のとき、足にマメをこさえた客のもとへ医者を連れて行くことで、その場を逃れることが出来る。立派な執事として気分も高揚できた。ユダヤ人女中解雇で少し抵抗しかけたりもするが、でも押し切ることはしない。「主人の命令」という逃げ道がある。客に社会情勢について尋ねられる(ちょっと『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』で、運転手がワインのよしあしを試されるシーンを思い出す、ヨーロッパの上流社会の陰湿さ)。これやっぱり彼の心に引っかかってたんだよね、のちにパブで、歴史に関心を持ってた、と言う。ここらへんの二重三重に隔てて感情を確認させるのが、実にうまい。けっして無感動ではない内面を、チラチラと見せていく。センチな恋愛小説を読んでいる。「語彙を多くするためです」って。ミス・ケントンが意地で婚約した晩、ワインを持って(一度階段で割ってしまう)彼女の部屋に至る。泣き崩れている彼女。ほこりが残っていた、とだけ告げてワインも置かずに去っていく。こうして彼はまた「自分の人生」から逃げる、「無感動の執事」に逃げ込む。そしてあっさりした再会、彼女は孫の面倒と、確実に外の世界に自分の場を作っている。20年目に彼は裁かれる。アンソニー・ホプキンスとしては、某博士よりもこっちで名を残したかっただろうなあ。己れの心の動きに戸惑い、それを抑える感じが実にうまいんだなあ。 【なんのかんの】さん [映画館(字幕)] 9点(2010-12-18 10:15:13) (良:2票) |
87.《ネタバレ》 スティーブンスの一人称で語られるカズオ・イシグロの小説の滑稽味を抑え、シリアスに徹したジェームズ・アイヴォリーの静かなる傑作。なじみの薄い大英帝国時代のサーヴァントの世界を描きながらその中に引き込む力はきわめて強い。「ゴスフォード・パーク」のような俗悪な描写ではなしに、あくまでプロに徹した精錬な仕事ぶりには清々しさ、崇高さが漂う。その中でともに重要な立場にある執事と女中頭は、屋敷の雑事一切を取り仕切る上で同志でありライヴァルであり信頼感と緊張感を併せもつ関係。彼らに好意以上のものが生まれても不思議はなく、そう感じながらも今一歩踏み出せないのが切なく痛ましくもあるが悲劇とは呼べないし、ホプキンスとトンプソンは最高と思われる演技を見せてくれる。(アンソニー・ホプキンスの一番有名な役がこれでないのは残念なことだ)ラブシーンや愛の言葉などなくとも、彼がひそかに愉しんでいた恋愛小説をミス・ケントンが手にとろうとする場面は作品のハイライトとして、酔わせる。とどかなかった愛は色褪せることもなく胸にしまわれ、一抹の悔恨を含みながらも人生は過ぎ行く。ダーリントン・ホールの新しい主人(クリストファー・リーブはノーブルなアメリカ人として選ばれたのだろうか?)の元、過去から身をふりほどき一人の執事に立ち戻るスティーブンスの姿には、仕事に人生を捧げた男の信念を感じる。 【レイン】さん [映画館(字幕)] 9点(2010-03-30 06:00:43) (良:2票) |
《改行表示》86.《ネタバレ》 英国人作家カズオ・イシグロの1989年のブッカー賞受賞作品を映画化した作品。 カズオ・イシグロの小説は独特のノスタルジーや丁寧で抑制された文体が魅力的(邦訳されたものしか読んだことはないですが)ですが、この映画はその魅力をとても忠実に写し出している作品だと思います。 英国貴族の執事を主人公に据えるという原作の着想が素晴らしい上に、その登場人物たちの言葉にならない様々な思いが音もなくぶつかり合う様を主演のアンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンをはじめとした俳優陣が見事に演じています。主人のためには自分の思いを殺すことが最も大事だと信じて疑わない主人公ですが、その考え方を否定しつつもそのストイックなダンディズムに一定の理解を示し、敬意を表するかのようなカメラの視点が心地よいです。この映画は何度も観ていますが、去り行く時代への懐旧の情や仕事に生きたがゆえに実ることのなかった昔の恋を思い、果たして自分が過去にとった行動は正しかったのかと自問自答しながら旅に出る主人公の姿を観る度に、いつもなんとも言えない気持ちになります。 また、いくつもの屋敷で撮影を行ったと言うだけあって、当時の屋敷の雰囲気もリアリティがあります。風景の美しさも見所の一つでしょう。 お涙頂戴に堕しない、心で泣く映画です。 【枕流】さん [DVD(字幕)] 8点(2010-01-10 00:19:51) (良:2票) |
《改行表示》85.《ネタバレ》 思慕の熱情は徹底的に抑えられるが、微かな戸惑いの表情と動作に現れるズレが彼の心情を切実なものとして僕らに伝える。映像は彼のモノローグを確かに映す。それは、生きるということに付きまとう様々な心情の物語であり、ラブストーリーである。 彼は自らの役割に生き、その忠実さによって生の充実を得てきた。そこに差し挟まれる仄かな疑義。戸惑い、躊躇しつつ、それでも愚鈍に役割を演じることを選ぶ。それは何という諦念であり、決意なのだろう。沈黙の中に様々な心情を映す。これこそが真のヒューマニティなのだと僕は言いたい。 物足りる作品は、想像力を掻き立てない。物足りない作品こそ、僕らの想像力によって補われ、僕らの為の作品となる。 『日の名残り』が最上のドラマであることは改めて言うまでもない。良質の映画というものは、その良質さ故に、結局のところ、分かる人にしか分からないものなのだろう。 【onomichi】さん [DVD(字幕)] 10点(2009-09-21 08:24:28) (良:2票) |
84.《ネタバレ》 執事たる者、女中頭と恋に堕ちてはならない、主人に自分の主義主張を口にしてはならない。執事としての信条を貫き通したスティーブンスですが、機械の様に無感情ではなく、人として湧き上がる感情を自ら淡々と押さえ込む様子を観て、悲しくなりました。中でも、恋愛小説をケントンに無理やり取り上げられるスティーブンスの姿、あの右手は動かなかったのか動かさなかったのか、は胸が痛くなる忘れられないシーンです。ダーリントン卿の最期を、バスで去ってゆくケントンを、それぞれどのような気持ちで見送ったのでしょうか。ケントンが「愛しています」と自分から一言も口にしなかったのは、執事というものを理解し尊敬していたからなのでしょうか。二人の見事な演技を観終わった後、いろいろな事を考えさせられ、自分なりの答えがまだ見つからない作品です。 |
83.たまりません。様式美を愛するイギリス好きの私には超ドツボな映画。アンソニー・ホプキンスが執り仕切る優美で洗練された貴族の生活。台所で、食卓で、遊技部屋で、彼が行う様々な仕事にウットリした。BGMがまた素晴らしい(【ともとも】様に同感)。人生の大事な選択って発車のベルが鳴り終わってから扉が閉まるまでの電車のように、ちょっとでも躊躇すれば乗り遅れてしまう。けど、乗ったら乗ったで果たしてそれで良かったのかと自問自答。それでも時は容赦なく過ぎてゆくのだ。この役はアンソニー・ホプキンスにとっての最高傑作だと私は思うなぁ。まさに緩やかに暮れて行く「日の名残り」を存分に味わえる作品。 【黒猫クロマティ】さん 8点(2004-04-05 15:44:31) (良:2票) |
82.《ネタバレ》 原作の小説も読んだ。作者は日系人。それに関係あるのかないのか、この作品で描かれるイギリスの執事は日本の侍とどこか似ている。自分の属するものに対する忠誠心と禁欲的なまでの自縛精神。ともすれば時代錯誤になりそうな物語だが、魅せる。人生においてたった1度の恋、そしてその決着。自らの美学で自身を縛しそれを貫くその様、そのストイックな人生哲学はただひたすらに見事。 【ひのと】さん 8点(2003-12-26 21:21:45) (良:2票) |
81.映画のたのしみの一つに、自分がまったく知らない世界を、疑似体験出来る、ということがある。この映画はまさにそれ。アイボリー監督独特の、奇をてらうでもなく、衝撃を与えるでもなく、重厚かつ眈々とした作り込みは、小さな住宅すらまともに管理出来ないグウタラな私を、二時間十分の間、イギリス貴族の有能な執事の世界に浸らせてくれるのである。映画という性質上、たしかに原作と比べて、スティーブンスの微妙で繊細な心理描写は描ききれていないが、この音楽と背景と効果音(この映画の効果音はなかなか素晴らしいと思う!)と役者の上手さは、総合芸術として、見て損はない、美しさだと思う。 【ともとも】さん 9点(2003-11-09 11:47:09) (良:2票) |
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80.第二次大戦に突き進む歴史が、徐々に屋敷を覆っていく不穏な緊張感。感情を押し殺した男と女が作り出す、肌がヒリヒリするような緊張感。本作は静かで壮絶なるサスペンス映画。ひたすらに秩序を愛するプロフェッショナルにとって、最大の敵は自らの感情と生理。やがて秩序に勝利をもたらした男が、引き換えに得たものとは何なのか? 「彼は最も私を必要としてくれている」という言葉で男を非難し、同時に自らを納得させる女の気持ちが痛い程よく解る。古臭い男のダンディズムは、女にとっての苦しみになることもあるのです、7点献上。 【sayzin】さん 7点(2002-07-27 17:20:09) (良:2票) |
79.貴族の豪邸とはいえ個人の邸宅であのような国際的な会議が日常的に行われていたのか。第1次世界大戦後の話だが、もっと昔の話のように思える。執事と女中頭の秘められた恋心という触れ込みの話だが、(原作も含め)本当にそんな強い恋心があったようには見えない。映像はきれい。 【エンボ】さん [インターネット(字幕)] 7点(2023-01-07 12:41:45) (良:1票) |
78.《ネタバレ》 舞台であるダーリントン・ホールと、その英国式庭園の格調高き美しさのなかにおいても、アンソニー・ホプキンス演じるスティーブンスの佇まい、その生真面目さとか、恋愛に対する奥ゆかしさとか、、日本人の気質に近いものを観た気がしました。彼の執事としての寸分狂わぬ完璧な仕事ぶりは、わが国が誇る職人のこだわりに近いものを感じたし、その一つ一つの手作業に見惚れるばかりの130分でした。 全体的に張りつめた雰囲気に終始しますが、唯一、ヒュー・グラント演じるカーディナルが見せるトボけた味わい、そして彼と執事の交流は、緊張感あるこの作品に良いアクセントを加えているように思う。 どうやら、本作はカズオ・イシグロ氏の原作を読まれた方には不評のようだが、個人的には、晩年のミス・ケントンと歩く夕暮れ時の美しさ、おそらく二人にとって最初で最後の握手になるであろう、バス停の別れは心に残るものであり、これだけでも映像化したことの価値を見い出すことができた。 【タケノコ】さん [DVD(字幕)] 8点(2013-12-22 23:29:54) (良:1票) |
77.《ネタバレ》 映画は必ずしも原作どおりであるべし、とは思わないけれども、この作品は映画化にあたって話を面白くしようという操作が鼻についてしまった。スティーブンスが(原作中で)何度も語るのは執事としてあるべき品格や見識。彼の中に血流の如く流れる謹厳さと、主人であるダーリントン卿への敬愛。A・ホプキンスを、レクター博士顔のまま執事役に配した今作は、この部分がすっぽり抜け落ちているので人物が薄っぺらい。執事氏はミス・ケントンが泣いている部屋に平然と入ったりは断じてしないし、再会の場でも互いの人生を尊重し、再就職の話が出ずに終わる原作の方が心の機微を感じさせてずっと気持ちが良い。映画ではどしゃ降りの中で二人は別れる。なんて田舎くさいセンスの演出だ。ああ、なんで夕陽に照らされる橋の場面をまるまる無視するんだろう。橋の上で見知らぬ相手に心情を吐露する執事氏を、暮れてゆく夕陽が赤く染めてゆく。執事氏が人生を振り返る、タイトルを象徴するこの美しいシーンが無いなんて。ここで号泣した私としてはちょっと怒りすら覚えたのだった。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 5点(2012-07-01 01:30:30) (良:1票) |
76.いるいる こういうおじさん!うまく主人公を表現できていてリアルだとおもう。最後メイド長が結婚前部屋で泣いているてホプキンズが自分の気持ちが言えなかった所は実にもどかしかった。途中政治家?がホプキンスに庶民代表で政治の話題を聞かれて馬鹿にされたシーンは切なかった。 【ホットチョコレート】さん [地上波(字幕)] 7点(2012-06-02 19:11:01) (良:1票) |
75.じわじわと切ない。主君を重んじ職務を全う。結果、主は没落、相思相愛だった女性とも結ばれず。でも良い新君主に再雇用されて良かったね。よぼよぼの親父と一緒に働く理由がよーわからんかった。 【すたーちゃいるど】さん [DVD(字幕)] 7点(2012-01-07 22:36:45) (良:1票) |
74.執事という仕事が、使用人と呼ばれる職種の最高峰として誇りをもつことのできた時代。あらゆる感情を押し殺してその職務を全うしようとするバトラー魂と一人の人間として揺れ動く感情との内面の葛藤を、非常に繊細な抑えた演技で見せたホプキンスはさすが。レクター博士よりよほど深く重く複雑な心理描写が求められるこの役こそ、彼の代表作と言っていいのでは。感情のままに突っ走る若い使用人カップルを見送る2人の心の内を思うと大人でいることの切なさにキュンキュンする。観る方も有る程度大人じゃないと良さを味わえない極上の一作。 【lady wolf】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2011-05-12 14:25:29) (良:1票) |
73.淡々と描かれているから切なさがひしひしと伝わる。 【HRM36】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2009-10-08 15:07:41) (良:1票) |
72.心情は痛いほど伝わってきました。が、もうひとひねりあっていいんじゃないでしょうか。少し残念。 【noji】さん [地上波(字幕)] 5点(2009-08-16 09:52:10) (良:1票) |
《改行表示》71.《ネタバレ》 結局失恋もすんなりと受け入れ、執事の職へと戻っていく顛末故に難解と捉えられてしまうのかもしれない。 劇的なドラマを期待しても現実では早々そんなものは起こらないし、自らそういう行動をとるのも難しい。 彼にとってはかつての同僚に声を掛けるのが精一杯。彼女の幸せを省みずにドラマを求めるなんて彼にとっては堪えられない愚行。 現実はどんな感情も後悔も飲み込みながら、続く。 【カラバ侯爵】さん [DVD(字幕)] 8点(2007-12-27 16:57:23) (良:1票) |