7.インパクト絶大な真っ白な世界で始まるこの作品全体に暗澹とした雰囲気が漂っているのは確かだけれど、決して絶望的なだけの映画ではない。破天荒で手のつけようがない、でも心から大切な弟への、兄の深い悲しみと温かい思いが伝わってきて、観賞後の切なさには堪らないものがある。最後の子どもの出生は、間違いなく希望そのものだ。 【和狗】さん [DVD(字幕)] 10点(2005-10-27 16:49:06) (良:2票) |
6.《ネタバレ》 痛い。観ていて、ひたすら痛い映画。あまり内容が整理されていなくて、役者の演技で持ちこたえているようなところがある作品だが、兄弟の葛藤物語として良くできている。この兄弟の容姿も性格も立場も極端に違う姿は、あまりにも神話的で寓意的である。喜びも悲しみも内包して、一見無表情で、ひっそりと物静かに幸せを探すかのような兄。じゃれたり甘えたりはしゃいだりしながら、どこか斜に構えて冷笑し、ふいにゾッとするような禍々しさを見せる抑制力の無い弟。この二人の対照的な存在が、あまりにもあざやかで、印象深い。ベトナムから帰ってきて、兄の家までは来たけれども「ママとパパはいい」と会わずに帰るフランク。何度か鑑賞していると、その時点で悲しくなってくる。実の親にたった一目でも会うのがイヤだと言ってしまうほどの絶望。そこにあるフランクのナイーブさ。そういうフランクが妻の出産に立ち会うことが出来ずに逃げ出したくなるのは、分かるような気がする。分かるような気もするが、私は女なので、フランクの自己世界に入れてもらえないドロシーとも気分が同調するので、痛い。イタイ。ラストなどは、ほとんどせりふがないのに、二人の苦しみと絶望が伝わってくる。この辺の演出にはただただ感嘆するのみだ。映像も、禍々しさと不条理に満ちながら、それでもいつも兄のほうへ視点を持っていくので、心にストンとおさまる。締めくくる兄の言葉には、現実を受け止めて生きる男の、万金に値する重さがある。人生はすばらしい。 【ルクレツィアの娘】さん 8点(2003-05-20 21:40:42) (良:2票) |
5.もう、何も言うことはありません。ただ、ショーン・ペンは本物の映画作家であると。ジョン・カサヴェティスのインプロヴィゼ-ション的アプローチとも違う人間への肉薄の仕方は、ほんと素晴らしいです。以後の監督作品も、どれをとっても逸品だし。だのに、なぜ世間は『デッドマン・ウォーキング』みたいな、所詮はウエルメイドなメロドラマばかりを称揚するんだろう… 【やましんの巻】さん 10点(2003-05-20 12:51:12) (良:2票) |
4.正義漢の兄と落ちこぼれの弟のお話。兄弟は、話の展開にしたがって徐々に心が離れていくようにみえる。理解しあえるようでいて、それはどんどん遠くに離れてしまうのである。そのことの理由は語られない。最終的に警察官の兄が犯罪者となった弟を追跡するシーンにまで至り、父親は兄弟の確執とは関係のないところで意味もなく自殺する。図式はありふれているし、話としても結構単純だ。しかしそのモチーフは僕にとって切実に思えた。兄は弟を追いながらそのことの意味を理解できない。弟は兄に追われながらその理由を失っている。自分の心さえ掴めない寂莫感にお互いが自覚的ではあるけれど、最後に兄が弟を見逃すシーンに言葉はなく、ただ「アイ・シャル・ビー・リリースト」(byザ・バンド)が流れるのみ。「いつかきっと僕は解放されるだろう」 あー、なんてリアリティのないフレーズだろうか。そのことの空虚さが心を締め付ける。「インディアンランナー」はたぶん時代遅れな映画だ。すべてに自覚的でありすぎる分、それはもう時代遅れなのだ。僕らはその時代遅れの気分でしか、もう心を震わすことができないかもしれない。それはとても切ないことだけど…。 <ちなみに冒頭で、狼の力を盗んで鹿狩りをするインディアンの逸話が出てくる。弟の中で幻影のように現れるインディアンとは、自分自身に潜む凶々しさとその神々しさが一体となったスピリチュアル・イメージであり、その「らしさ」に理由がない絶対的な存在としての強迫観念でもあるのだ。> 【onomichi】さん 10点(2002-01-17 02:36:29) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 インディアンは鹿の「鋭敏さ」を尊び譲り受けた。インディアンランナーは森の叡智を授かりし使者だろうか。弟フランクの前に現れる使者は「伝達のイメージ」であり、フランク自身が「使者」として描かれている気がした。その伝達で彼は両親の死を先に知り、怖れから会うことも出来ず、凄まじい哀しみの姿から親への深い愛が伝わってきてとても痛々しい。父の自殺は兄弟の絆を戻す望みにみえた(知り得た弟は嘆き自分を責めてボロボロになってしまう)純粋性ゆえに内面の狂気の抑制力が効かず、衝動は暴力へと繋がってしまう。不器用に生きることしか出来ない。兄の愛も純粋で直球だ。愛は重いのだろうか。無意識に弟を追い詰めたかもしれない。バーでの弟の論理や「不条理への怒りと悔しさ」は通じなく、正しい良き人生のお手本のような兄に対する激しい劣等感と、兄の優しさへ応えられない自分の不甲斐無さへの罪悪感で絶望の淵に墜ちてしまった気がしてならない会話だった。無邪気な子供の頃に戻れない。愛が人を傷つけ、狂気が人を癒す…。子供の誕生が近いことを知り重圧が恐怖に変わり凶行へ走る。「俺は正しい」という誇りを見せながらも兄を慕っている血まみれで憐れな弟の顔…兄は弟を放っておけるわけがなかった。逃亡する弟に生命の誕生が伝わった。男の子だった。その瞬間の弟の表情に後戻り出来ない無念さと後悔が滲んでいて切ない。逃げる結末しかない弟を静かに見送る兄の愛。子供の頃の2人に戻れた。最後にフランク(使者)はメッセージ(子供)を残したのだろう。本物の出産シーンだった。生命から生命が産まれる素晴らしい神々しさ。フランクの赤ん坊は母の慈愛に包まれていた。この世には愛がある。「人生はいいものだ」弟への、私たちへの希望の、あるいは救いの言葉だった。社会・街・人の映像描写の濃密なドラマは全てが繋がっていて感動を覚えた。インディアンへの敬愛…映像美に現れるその精神。狂気さえ炙り出す内面心理へのごまかしのない眼差し。家族への想いと兄弟愛。Janis Joplinに、ほとばしる熱い情熱と力強さに心が震えた。狂気と愛情が同じラインで急展開する破天荒な表現力は衝撃的だった。胸が苦しくなるような鑑賞後のやるせなさ…。ショーン・ペンは感情の全てを激しくこの作品に叩きつけた!インディアンランナー=時空を超えたメッセージ。この映画に巡り会えて本当に良かった! 【ひいらぎ】さん 10点(2004-06-12 01:42:03) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 白い静寂の画面を唐突に横切る逃走車とパトカーにまず驚いた。かつての悪童ショーン・ペン初監督にして脚本も担当。とにかく丁寧に作られている。映像もそうだが、人物描写が特に丁寧。丁寧すぎるくらいである。ちょっとした脇役にも手を抜かない。どういった町で主人公達がまわりからどう思われているかなどを解からせる重要な役割を担っている為の丁寧さなのだが、変な伏線を期待させるデメリットにもなっている。社会から逸脱した弟と警察官という社会の象徴である兄の物語である。兄は弟に幸せになって欲しい。弟だって幸せになりたい。しかし弟にとっての世間は冷たい。世間自体はそんなもんである。でも世間と接したことがない弟にしてみれば許せないのである。この破滅型の弟に少しでも共感出来る部分があればいいのだが、無ければこの映画は面白くないだろう。ラスト、兄は弟を捕まえない。救えないと察したのだろうか。会話無く別れる。なんともやるせない。 【R&A】さん 7点(2004-02-13 15:27:15) (良:1票) |
《改行表示》 1.ほんとショーンペンがこんなに熱い男だと思っていなかった。当時、91年は「カンヌで賞賛された映画」として上映されていた。ただ、良かったのはカンヌでノンタイトルだったということ。そもそもカンヌでは熱い映画は賞を取らない。 こういう熱い映画が見たい人は、賞なんか無くてもきっと運良くこの作品を見つけると思うし。 あらすじは少し難しい。 紙も無く、文字も共通のものが無く「口伝」で意志を伝える疾風の使者。インディアンランナー。その伝説は、現代に置ける「精神に闇を抱え、かつ不器用で、本能が常に言葉を超えた人生の不満を見つけてしまう」兄弟の弟、ウ゛ィゴモーテンセンに置き換えられる。本当の「メッセージ」は、インディアンランナーの伝説と同様に普通の人々には素早く捕まえる事ができない、とういう共通点。弟の本質を見抜いている彼等の父は、妻の死によってなんとか離れて行った弟に彼を捕まえるためのメッセージを送ろうと考える。 しかしながら、兄弟の関係は父の望みとはかけ離れさらに溝が生まれる。その後も兄は必死に「弟」というメッセージを捕まえようとするが…という話。 今思うとこの映画に出ている若手役者は、最近の映画界の主軸の人ばかり。役者畑である監督が、人選も渾身の一発でキメている。悪いけど、わがままを言わせてもらえばこの映画が分からない人は教養と道徳の無い人と決めつけたい。 【セクシー】さん 10点(2002-11-06 22:35:42) (良:1票) |