《改行表示》25.《ネタバレ》 どうでもいい事だが、自分は井伏鱒二の原作を読んで一週間うなされた経験を持つ。あの凄まじさがこの映画でも完璧なまでに再現されていたら、自分はきっと一ヶ月はうなされていたかも知れない。 それでも、人々の挨拶から始まるオープニングからして不気味な静けさが漂う。嵐の前のような。 まばゆい閃光と共に夥しい窓ガラスが砕け散り、爆風によって一瞬にして路面電車から投げ出され叩きつけられる、遠距離から巨大なキノコ雲を見る瞬間の、川の上から市内に向かう瞬間の、黒い雨がぽつぽつと降ってくる瞬間の恐怖。 吹き飛ばされた女性がうめき声をあげる、火傷で顔が崩れる人々、倒壊しかけた家からの脱出、生き埋めになり屋根の中から瓦礫を投げて助けをこう(あるいわ気がふれてしまった)姿、黒焦げになった遺体が山積みになる市街地、防火水槽に体を突っ込んでいる黒焦げの死体、大火傷を負い腕から皮膚が垂れ下がる子供、その子供が「兄ちゃん・・・」と声を必死に張り上げて青年を呼び止める場面、変わり果てた姿になった子供がやっと弟だと解り抱きつく瞬間の残酷さ、黒焦げになって死んだ赤ん坊を抱きかかえる母親らしき女性、馬の遺体、川の水を飲んでそのまま死んでしまう人々、川を流れてくる多数の遺体、水の中から引き上げた魚(うなぎ?)が元気よく動く姿が異様に見える、引火して爆発する列車。こういった爆発が新たな火種となって広島は尚も焼き尽くされていったのだろう。トラックに積まれる遺体・・・こうして書いているのも恐ろしい映像ばかりだ。 だが、焦点は原爆の惨禍ではない。原爆後の、戦後の後遺症に襲われる人々の叫びや苦しみに重点が置かれる。戦場から帰ってきたタツが敵襲に怯える姿の恐怖、あの日の恐怖を思い出して泣き叫び、次々と後遺症によって死んでいく人々。娘の未来に絶望したのか、狂ったように「結婚するな」と繰り返す母親、それに何も出来ない無力さに打ちのめされる夫として・父親としての重松。 かつて原爆の惨禍と後遺症で苦しむ人々を描いた作品は幾つも存在する。 今村昌平のこの作品は戦後数十年だからこそ、あの日を直接経験しなかったからこそ描けた作品だが、今までの作品が描けなかった限界を超えているとは思えない。 確かに原爆後遺症で嘔吐するシーンや髪が抜けていくシーンは凄みを感じたし、デジタルニューマスター版のDVDに収録された矢須子のその後をカラーで描いた映像の強烈さ。 しかし、たどり着いた後に亡くなった会社の同僚の姿。顔は白い布で覆われているし、「黄色い水を吐いたとたんに死んでしまった」という事が口で語られるだけ、白い布の下をハッキリ見たのも彼らだけ。重松がお経を読み上げる場面も、遺体は既に燃え盛る炎の中であり、跡に残った白骨だけが静かに語る。 女性の裸にしても、新藤兼人の「原爆の子」が爆風で衣服を剥ぎ取られ乳房を丸出しにした女性を描く事で惨禍をより際立たせていたのに対し、この映画は女性の裸体はほとんど描写されない。女性たちが汚れた服を脱ぎ体を洗う場面も、首というより鎖骨から下は水につかり映されない。 冒頭の徹底的な描写に比べると、観客にその過程を見せない必然性は何なのだろう。重松がお経を頼まれる辺りから、物語は何処か抑圧に向かっていった気がする。 今村昌平はアニメ映画「はだしのゲン」の凄まじさを参考にしたそうだが、あくまで参考であり、物語は原爆で人生を狂わされた人々のやりきれない姿に心血が注がれる。抑圧された、誰にも理解されないかもしれない苦しみを。病院に運ばれる最愛の人の無事を祈る事しかできない、遠のく姿を見守る事しかできない無力さが・・・。 【すかあふえいす】さん [DVD(邦画)] 9点(2015-06-19 13:54:44) (良:1票) |
24.広島長崎の原爆投下から67年が経過しようとしているが、いまだに原爆の傷跡は癒されてはいない。私の子どもの頃(昭和30年代)も原爆症で苦しみ多くの方が亡くなっていった。いつ発病するともわからないまま不安な日々を過ごす人たち、ピカにあって思うように働けない人たち、結婚差別を受ける人たち・・・。映画そうした苦しみの中で生きる人たちの物語で、北村和夫、市原悦子、田中好子らが見事なまでに演じている。特にスーちゃんこと田中好子は近年癌で亡くなったことともダブり非常に痛々しい。 【ESPERANZA】さん [DVD(邦画)] 9点(2012-08-07 17:10:44) (良:1票) |
《改行表示》23.全編モノクロ映像の反核映画。戦時中及び原爆投下時のシーンは少なく、 戦争終結後の主人公たちの姿を追ったシーンが約8割方。 原爆病ばかりでなく、その後の人生に様々な影響を及ぼすエピソードが丁寧に描かれており、 直接的な悲劇シーンを延々と見せられるより、原爆の恐ろしさがひしひしと伝わってくる。 北村和夫、市原悦子は相変わらず安定感のある演技を見せてくれるが、 スーちゃんも思っていた以上に頑張っていた。 原爆投下直後のシーンはかなりリアルで、当然のことだけど、全体の雰囲気は重苦しい。 決してドラマ性の強い作品ではないが、原爆の恐怖を側面から訴えた良質な作りの作品だと思う。 【MAHITO】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2011-07-30 03:03:56) (良:1票) |
22.まず目を引くのは、原爆投下直後の広島の惨状を「これでもか!」というぐらいに生々しく描いた前半部分。かつてトラウマになった漫画「はだしのゲン」が吹っ飛んでしまう程の凄まじい衝撃映像の連続に思わず目をそらしそうになりました。不覚。そのインパクトに比べると昭和25年の話は若干弱い気もしますが、それでも直接被爆者や二次被爆者が次々と死んでいく展開は実に恐ろしく、原爆の被害が一過性ではない事の残酷さを否応無しに思い知らされます。また、矢須子の「その後」を敢えて描かない寸止め描写も◎。もし今これをリメイクしたら、思い切り泣ける「最期」にしてしまうんでしょうね。 【とかげ12号】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2008-06-22 14:19:44) (良:1票) |
《改行表示》21.原爆投下時の横川駅での爆風の真に迫った映像やその後のきのこ雲には鳥肌がたった。やす子が黒い雨を浴び、3人が被爆後の広島で見る人々の惨状は回想を含め3回に分けて描かれる。 世界初の原爆投下は実験的なものだったというのは明らかなところで、アメリカ軍が記録したという映像も極秘資料で一般には見ることはできない、と思う。 広島の原爆資料館にも直後の惨状を伝える映像はなく、被爆者が書いた絵や被爆した物品、状況説明などから想像するしかない。 映画では一瞬のうちに焼けて炭化した人間が至る所に転がり火傷で手から皮膚が垂れ下がり夢遊病者のように歩く人々、川を流れていく死体など話に聞き、想像するしかなかった惨状が描かれている。この部分だけでも原爆の恐ろしさを伝えるのに十分貴重な映像と言えるが、さらに恐ろしいのはやす子は直接被爆しなかったのに5年後に発病する。他にも次々と発病し死の影に怯えながら偏見や差別まで受ける被爆者の苦しみが描かれる。 田中好子はじめ市原悦子などの出演者はそのあたりをリアルに好演している。 日本人でも戦後60年もたって関心は薄くなっているが、唯一の被爆国としては核兵器の恐ろしさを世界中にアピールし続けなくてはならないと思う。 【キリコ】さん 8点(2004-07-09 16:30:27) (良:1票) |
20.日本に起きた出来事を描いているから完全な他人事ではないとはいえ、原爆被害者と、被害を受けていない人の間には決定的な体験の差(断絶)があり、安易に共感することが許されない映画だと思った。この映画を、北村和夫や田中好子に自分を重ねて鑑賞する人はほとんどいないだろう。それだけに、この映画は「第三者」としてどのように鑑賞するかが問題になる。ひとつ興味深かったのは、「正義の戦争」をするのが当り前なアメリカと、「不正義の平和」を当り前と考える「おじさん」のちがい。そして、原爆反対運動を少し遠くから見つめている原爆被害者。原爆反対運動は、結局の所、両者の「正義」の押し付け合いだという点では、世界大戦と構造上まったく一緒だったのではないか? そのようなジレンマを避けるには、「おじさん」のように、そっとアメリカを「わかってねぇな」と馬鹿にする以外にはないのではないか? 「おじさん」にとっての最大の関心事が、朝鮮戦争での原爆使用問題ではなく、姪の奇跡的な快復を願うことなのが、一個人の精一杯の態度のように思えて涙が出た。大滝秀治が全然変わってないのと、市原節子の声が「日本昔話」を連想させるところが少し笑える。 |
19. ビデオ表紙の「死ぬために生きているのではありません」というコピーに引かれて借りた。 原爆投下後の広島のシーンが、凄まじい。白黒なのでホラー映画のようなグロさから一線を画し、冷静に悲劇と向き合える。 原爆症で、登場人物が一人ずつ、静かに死んでいく描写が、個人の小さな幸せを笑って国家の大義を通すことへの監督の問いかけを感じさせた。 「正義の戦争より、不正義の平和のほうがマシ」という台詞が、今でも私の中で引きずっている。 【たまお2】さん 9点(2003-05-15 00:20:04) (良:1票) |
18.《ネタバレ》 戦車特攻で病んでしまった青年はどうやら原作にはない映画オリジナルの設定のようであるが、本作品ではキーマンになっている。2人の縁談が持ち上がった時の叔父・叔母の対応。「おいつは病気じゃないか!」という差別意識が、原爆被害者にもあるという描写には唸らされた。ラストで青年は車のエンジン音も気にせず矢須子を抱えて乗り込んでいく。ベタではあるが、ここに愛による人間の再生を感じた。で、コレ白黒だけど平成の作品なんだよねえ。当時は結構話題になったように記憶しているが、すっかり埋もれてしまっているのが残念。毎年放映すべき作品であると思う。 |
17.《ネタバレ》 ○メインは終戦から5年後、黒い雨を浴びた、いわゆる二次被爆が引き起こす悲劇。○ある日突然紙が抜け落ちる前兆から周りの二次被爆者は皆死に至る。それ故、縁談も進まず、母は次第に精神を侵されていく。○父の努力もむなしく、ようやく来た縁談相手はまだ戦争が終わっていないと思い込んでいる近所の男。○虹がかかればすべてうまくいくという父の最後の言葉が虚しくこの映画を締めくくる。 【TOSHI】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2017-09-03 15:48:12) |
《改行表示》16.《ネタバレ》 後世に残したい映画とはこういう映画だと確信を持って言えます。始まって白黒映画で驚きましたが、その演出も核兵器の凄惨さを教えてくれるのに役立っていると感じました。 核爆弾の二次的被害の大きさはここまで及ぶのかと想像を超えていました。被害がいつ出てくるかという不安感に苛まれる気持ちが劇中通して伝わってくるし、他人には分からないことを教えてくれます。苦しんで生きることの辛さ、どれ程大変だろうと想像を絶します。 また登場人物の多くは、他人に迷惑を掛けたくないという日本人らしい性格で描かれており、感情移入しやすく親近感を持ってみることが出来た気がします。 時に、皆が他者の気持ちを慮るあまり物事が上手く進まないことがありますが、それって不合理ですが素敵なことだと思います。そんな心を持って生きていきたいと改めて思いました。 【さわき】さん [地上波(邦画)] 9点(2016-12-21 18:43:35) |
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15.原爆の凄惨さを見慣れていてもなかなか正視できない映像である。世界史を振り返れば平和がいつまでも続くことの方が驚異であり、戦後高々70年しか経っていないのにその種の緊張感は希薄になっている。生き残った人が被爆の後遺症への恐怖を抱きながら次々と亡くなっていくが、悲惨な運命に立ち向かわざるを得ない人間の芯の強さが切ない。今は亡き田中好子の熱演がとても心に残る。 【ProPace】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2015-08-08 09:50:02) |
【ケンジ】さん [DVD(邦画)] 7点(2014-02-23 22:57:54) |
13.小学校の頃、授業で「はだしのゲン」を見せられてトラウマになった世代。この映画もモノクロとは言え実写だけに相当のインパクトがあるが、被爆直後の映像を除けばむしろ視覚ではなく音や気配でジワジワと恐怖感を煽る感じが出ていて、非業な核の恐ろしさが冷たく静かに伝わってくる。全世界の人々、特に核保有国の政権関係者たちには是非一度は観て欲しい。 【lady wolf】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-08-11 14:12:35) |
12.地道で丁寧な描写には好感が持てるが、ところどころ妙にホームドラマチックなのがやはり気になる。「この子を残して」とか「さくら隊散る」の圧倒的な描写を見てしまうと、どうしても緩く感じてしまうのです。同じようなシーンの繰り返しも気になります。 【Olias】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2009-05-23 18:46:20) |
11.原爆投下直後の広島の町の描写もかなりのリアリティで怖いが、作品は「黒い雨」を浴びたことによる二次被爆を中心に描いている。核兵器は言わずもがな大量破壊兵器であるが、それと同時に静かに体を蝕む「見えない兵器」の面もある。直接被爆はしていない、ヒロインの抜け毛という形でそれが見えるものになる、この描写には背筋がゾッとした。昨今は若者が右傾化し、核兵器を持って強い国になろう!という意見も見かけたりするが、核兵器の使用というのが何をもたらすのか解って言っているのだろうか?爆発の直接被害のみならず、人の体の奥まで入り込み、静かに人間を破壊する放射能兵器というものの恐ろしさを。核兵器に肯定的な人には是非観て欲しい映画だ。また本作では被爆者差別も描かれている。はだしのゲンでも「ピカの毒がうつる」と避けられる被爆者差別の描写があったが、「ピカの毒」の得体が知れなかった以上、避けた人の気持ちも解る気がする。所謂「無知が生む差別」に対しては正しい知識を広めることが先決だが、当時は二次被爆などの害ばかりが形になって現れ、正しい知識など得ようが無かった。ここの問題も描けていると思う。 【あっかっか】さん [地上波(邦画)] 8点(2009-04-15 13:41:26) |
10.《ネタバレ》 皆さん書かれている通り、風呂場で髪が抜け落ちる様を目撃するシーンはもの凄くぞっとしますね~。原爆が投下された広島の光景をリアルに描いた点も勿論秀逸ですが、なによりも原爆症の大変さを世に知らしめるという教育的観点からいってもこの作品には有意義さがありますよね。そりゃ確かに、今村さんの作品の中では異色かもしれませんよ。だけど、それでも自身が監督されたというのは、他の誰も撮らないから、自分がやってやるんだ、後世に伝えなきゃならないんだっていう、そういう使命感みたいなものがあったからなんだと思いますね。もの凄く重たい作品ではありますが、見応えは十分です。ただ、武満さんの音楽は正直言ってストレートすぎるかな、という印象も持ちましたね。画であれだけ恐ろしさが存分に出てるのに、さらに音楽であんなに煽らなくても十分じゃないのかなぁと。 【あろえりーな】さん [DVD(邦画)] 7点(2008-12-30 21:47:01) |
9.お風呂場で、田中好子の髪の毛が原爆の後遺症で抜けていくシーンが印象的。抜けていく髪の毛をマジマジと見つめる彼女が、何とも形容しがたい凄みのある笑みを浮かべるんですよ、もうゾーっとしましたね、このシーンは。キャンディーズ時代からのファンだったスーちゃんのヌードを実は期待して観てた、自分のよこしまな感情なんか吹っ飛んでしまうほどのモノクロ映像の強い力を感じました。それにしても今年は映画人の方の訃報が続きますね。ワールドカップで浮かれているテレビ局だけど、追悼番組として今村監督の代表作ひとつ位は放映してくれてもいいのに・・・。 【放浪紳士チャーリー】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2006-06-10 10:33:36) |
8.《ネタバレ》 小学校の頃に読んだ『はだしのゲン』を思い出します。『ジョニーは戦場へ行った』と同様、ホラー映画顔負けの残酷描写に思わず顔を背けてしまう自分は臆病者です。中でも衝撃的だったのは、原爆投下後の広島の中で変わり果てた姿の弟を見つけた兄が「お前は誰じゃ!」と認めたくないながらも最終的には「おお、お前か」と泣き崩れるシーンの遣り切れなさと、そしてやはり何よりも主人公・矢須子の髪の毛が浴室ではらはらと抜け落ちていくシーン。これらの衝撃は恐怖であると同時に、決して忘れてはならないものだと思います。こういう映画が海外で(特にアメリカでも)高く評価され多くの人々に観てもらえるというのは非常に嬉しいことですね。ラストはついエンドクレジットの向こう側に虹を探してしまいます、例えそれが見つからないものだと分かっていても…。 【かんたーた】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2005-05-09 18:17:05) |
【ムート】さん 8点(2004-07-12 03:52:10) |
6.広島、長崎の原爆投下から60年近くも経とうというのに、今もなお被爆の後遺症に苦しんだり、いつ原爆症が出るか不安を抱えながら生活している人々が全国に29万人(被爆者健康手帳保持者の数)もいるという。多量の放射能を浴びるということは本当にオソロシイことで、ちょっとした体調不良でも恐れおののかねばならないと言います。このような苦しみはとうてい被爆者にしか分からないことであろう。俳優達の淡々とした好演も手伝い、平凡な市民の日常というフィルターを通し原爆症の恐ろしさが見る者へ静かに伝わってくる。川又昂の乾いたカメラワーク、武満徹の不安を煽る音楽ともに印象的だが、何よりモノクロ映像というのが良かった。全世界の人々(とくに米国)へ原爆の恐ろしさを訴え続けるためにも、永遠に残すべき映画作品です。 【光りやまねこ】さん 9点(2004-05-30 21:59:50) |