5.ターミナルケア(終末期医療)の現場を淡々と描いた作品だが、あまりに無難というか、ステレオタイプな末期ガンの描かれ方に、何ら感動をおぼえなかった。
末期ガンの現実なんてのは、もっと凄まじく「過酷」であり、又、生命が最後の輝きを見せるという面において、これ以上なく「美しい」ものだ。
それがどうだろう、本作はその「過酷さ」と「美しさ」の両面とも描ききれていないではないか。
大体、あんな離れた位置に置かれたカメラでオブラートに包んだ様に撮って見せても、終末期医療の空気感なんて伝わって来ようはずがない。
これからガンに立ち向かうべき人達、これからガンと立ち向かうかもしれない人達がこの映画を観たとして、何のヒントが得られるというのだろうか。
こんな傍観したような映像からは、何の救いも得られないし、なんら魂も伝わってこない。
むしろ見ない方が良いと言えるかもしれない。
同じ末期ガンを描いた作品として、『ヨコハマメリー』が頭に浮かぶが、こちらの方が断然良かった。
『ヨコハマメリー』は、まさしく、末期ガンにおける生々しい残酷な現実や生命の神秘、そして人が死に直面した時、その人のそれまでの人生がどう噴出するかなどについて、ありのままを描いていた。
本作は、あらゆる面で手ぬるい。
人生最後の美しき輝きや、死に向う過酷な時間経過などを、表現しきれていない。
よって、ダメダメな作り物映画である。
いかにも小説である。
しかし、ただ一つだけ本作に共感をおぼえたことがある。
それは、「愛」というものが、人を死の恐怖から救うという結論である。
終末期医療においては、この「愛」というものが存するという事こそが、唯一の救いとなるのである。