12.《ネタバレ》 脱歌舞伎の剣戟映画の開祖の一つである「雄呂血」。
「日本のグリフィス」こと牧野省三の総指揮、
監督に二川文太郎、
そして阪妻こと阪東妻三郎の驚異的な殺陣!
坂東妻三郎を始めとする俳優陣の演技と殺陣には歌舞伎には無い躍動感が溢れ「歌舞伎なんざブッ壊してやる」というエネルギーが伝わって来る。
バンツマの盟友と言われる「まぼろしの殺陣師」市川桃栗。
彼の破壊的で斬新な殺陣はいかにして生まれたのか。
その真髄に少しでも迫れるのが本作だ。
ジョセフ・フォン・スタンバーグが斬られる人数を数えるのに夢中になったと言われるぐらいとにかく斬りまくる。
オマケにサイレント特有の超早回し映像で、まるで機関銃で一人ずつ狙い打つように斬り倒していく。
坂東妻三郎が松ノ木を背に刀をかまえる場面もほんの一瞬。
その時のバンツマ(坂東妻三郎)が最高にカッコイイ。
絵になる一枚だね。
だが、本当の醍醐味は27分にも及ぶ大立ち回りではない。
一途な恋心が理解されず、誤解を重ねて追い込まれていく平三郎。
人間の本性を目の当たりにする度に、無頼漢に染まっていく平三郎の描写が良い。
奈美江に思いを寄せた後に運命に翻弄されて諸国を彷徨う平三郎。
眼がすわり、ヒゲを生やし、ボロボロになった服を着ながらも歩き続ける力強い姿が素晴らしい。
「世に無頼漢と称する者、そは天地に愧じぬ正義を理想とする若者にその汚名を着せ、明日を知れぬ流転の人生へと突き落とす、支配勢力・制度の悪ならずや」という字幕が語るように、悪党が本当に悪党なのか?
悪党と言われる者が、本当は真面目に生きる人間だったりするのだ。
そして正義と言われる者が、偽善を振舞い悪事を働くような者も世の中には溢れている。
人妻になろうと、平三郎の一途な想いは変わらない。
愛する女を守るため、己の身を犠牲にする覚悟で悪漢を叩っ斬る。
これで平三郎の覚悟は決まった。
散々に斬りまわった挙句、捕縛されて連行されていく平三郎。
民衆には平三郎は悪にしか映らず、奈美江たちには命の恩人なのだ。
その恩人を助けられない奈美江たちの悔しさと哀しみ、平三郎の無念。
解る奴は解ってくれるが、解らない奴は一生理解できない。
それがこの世の中だ。
これほどの作品を発掘し守った人々には、感謝しきれない。