6.《ネタバレ》 誰でも御存じ、冒険小説の代名詞的作品だ。物語は文句なく面白い。
だが遺憾ながら、本作は演出が淡白で古臭く、興奮・忘我・熱中からは程遠い。著しく興趣に欠けるのだ。
冒険をしているのはジム少年なので、彼を中心に、彼の視線を通じて描かれるべきだ。
子役の少年の演技力量不足が原因なのかもしれないが、監督は客観的な視線で「宝島」という物語を過不足なく描こうとしているように見える。
だが、物語などは荒けずりでもよい。ジム少年の興奮や感動が伝わってこそ、観る者が共感するのだ。
観客が自己投影するのはジム少年であって、物語や筋立てではない。
ジムは何度も驚くべき体験をし、危機に直面し、大人顔負けの英雄行為を果たしている。
ビリー・ボーンズの死に遭遇し、宝の地図を発見し、宝探しの航海に参加し、ジョン・シルバーの悪巧みを盗み聴きし、船長のスパイとなり、銃撃戦を経験し、人質となり、脱出し、船を座礁させ、ナイフで刺されながらも敵を射殺したりと、まさに八面六臂の活躍だ。
特に、林檎樽の中に隠れて悪人共の姦計を盗み聴く場面と、ナイフで刺される場面は、観客の感情移入のしやすい場面で、もっと時間をとってじっくりを描くべきだろう。この二つの場面でハラハラ、ドキドキしなければ、映画は失敗だ。
原作は改変され、シルバーはジムとの交流を通じて、いくぶん人間らしい心を取り戻すラストになっている。それはそれでよいが、それなら伏線が欲しい。
シルバーの成長を描きたいのであれば、彼の過去や人間性を描いておく必要がある。彼に子供がいたとか、自分の子供時代をジムに重ねる場面があるとか、そういう細部にこだわってほしかった。ジムにしても、父親不在で育ったので、父親像をシルバーに重ね、彼を慕うようになるとか、そういう要素があれば感動的だし、一層真実味がでるというものだ。映画にリアリティが生まれるのはそういう瞬間だ。それがあれば、忘れがたい作品になる。この作品は、すぐに忘れてしまいそうだ。