23.将棋だけに限らず芸術や音楽、一家の大黒柱がそんな芸ごとに仕事そっちのけでうつつをぬかすとその家族は悲惨である。ましてや子供が二人もいようものなら…。それはさて置いて、この映画は人情ドラマとして文句の付けようがないほど良く出来ています。まず演技力確かな役者陣が良い。ちょっとユーモラスな坂田三吉を演じた阪東妻三郎はもちろんのこと、生活感溢れる女房小春を演じた水戸光子、そして迫真の演技を披露した娘玉江役の三條美紀などなど。監督伊藤大輔のメリハリを効かした味わい深い演出が冴えに冴えており、思わず唸ってしまうシーンも枚挙にいとまがない。また手作り感に満ちたセット美術も素晴らしく、とくに通天閣を望む人情味溢れた長屋の風景もノスタルジック充分。やはり本作での圧巻は二五銀のくだりでしょう。ピーンと張り詰めた雰囲気から不吉な風が吹く。自陣は破られる寸前で負け将棋の様相を呈している三吉だが、ここで一発敵陣に思いもよらぬハッタリの一手をかます。泡を食った関根八段は逆転劇を許してしまう。勝利でいい気になっている三吉だったが、娘玉江に腹の底を見透かされなじられる。勝てば良いというものではなく、名人位をねらうに相応しい堂々たる将棋を指して欲しいと。三吉は激怒し玉江を追いかける。それに追いすがる女房小春。鏡に映った自分の顔を見て我にかえる三吉。そこにはくも助将棋の顔があった。玉江の言うとおりだった。三吉は名人位をねらうに相応しい将棋指しになることを誓う。この一連のシーンはただただ圧巻で、父を心の底から思う娘玉江の姿に涙なしではいられなかった。その他にも記憶に残るエピソードばかりで、ついレビューが長くなってしまいます。そしてラスト、三吉が病床の小春にお題目を唱える中、彼女がお守り代わりにしていた王将の駒(この駒にはこの物語のすべてが詰まっている)をアップでとらえるエンディングシーンなんかもヤラれてしまい、またもや目頭が熱くなった。まさに人情ドラマの名作、文句なしの10点満点。 【光りやまねこ】さん 10点(2004-12-06 11:09:06) (良:4票) |
22.《ネタバレ》 阪東妻三郎、この俳優を見ていると役者とは何か?それを超えて一人の人間とは何か?って考えさせられる。同じような役者に今は亡き名優、渥美清という人がいる。この二人の共通点、それは言葉のトーンで泣かせることの出来る俳優であって、言葉の奥に秘められた感情表現の仕方、演技、身体全体から伝わってくるユーモアと優しさの全てを持った正に名優中の名優!それが阪東妻三郎という俳優であると言いたい。この映画の主人公、坂田三吉などその典型的人間味溢れる男の中の男!「無法松の一生」の富島松五郎と同じで、阪東妻三郎の男粋、優しさが画面全体を通して伝わってきて、もう、そこにいるだけで泣けて泣けて仕方がないぐらいだ!将棋のことしか頭になく、自分の大事な妻と娘のことをほったらかし状態にしてしまうほどの大の将棋バカであるそんな三吉が将棋など辞めると将棋の駒を投げ捨てる場面で落ちた王将と書かれた駒を拾う妻、水戸光子の演技も素晴らしい。夫の為にと尽くす姿、そこには夫と妻という夫婦の絆が見事に描かれている。そして、再び将棋の世界へと足を踏み入れた三吉がどさくさ紛れに放った手で勝利し、それを見ていた娘(三条美紀)に勝ちさえすればそれで良いの?と涙ながらに訴えかけられるあの場面、どこかのプロ野球チームの関係者全員に聞かせてやりたい!そんな娘の涙する姿に自分が間違っていたと涙する三吉!そんな三吉が関根名人の祝いの会で関根名人への思いを打ち明ける場面と、大阪に残してきた妻がもう、命は短いと解りながらも電話の受話器を持って一生懸命と妻に語りかける場面なんて、見ていて眼の前が涙で雲ってしまうぐらい本当に泣けてやばかった。これは単なる男と男の闘いのドラマではなく、それ以上に人間ドラマとして、素晴らしい大傑作の名に相応しい映画である。文句なしの満点です。 【青観】さん [CS・衛星(邦画)] 10点(2007-12-31 12:18:06) (良:3票) |
《改行表示》21.《ネタバレ》 まず人前では泣くことはない私だが、年に数回は名画に涙する。殊に洋画ならチャップリン、邦画なら阪妻の主演映画に滅法弱い。『無法松』にしても『高田馬場』にしても、そして本作『王将』にしてもそう。阪妻の芝居に対し、観るたびに全幅の信頼感を寄せている自分が居る。この坂田三吉役も、まさに富島松五郎と並ぶ一世一代のハマリ役で、かくも映像を通して人間の体温が伝わるものかと驚嘆を禁じ得ない。 そんな阪妻に対し、堂々と伍しているのが水戸光子。戦前のアイドル的存在感も可愛らしくて好きだが、戦後は『女』や『雨月物語』、そして本作での糟糠の妻・小春の如く、全身から苦労が滲み出たような役柄で一層の輝きを放つ名女優に化けた。他にも父への愛情に充ちた批判をする玉江の三條美紀が凛々しく、滝沢修の知性漲る関根名人も秀逸。そんな充実した役者陣、厚みのあるストーリー展開に終始釘付けとなり、やがて迎える感無量のラスト。視界が溢れる涙で歪んでしまうのだが、その満足感たるや凡百の映画では到底得られるものではない。邦画史においても私個人にとっても、掛け替えのない至宝と云いきれる珠玉の一本である。 【丹羽飄逸】さん [CS・衛星(邦画)] 10点(2007-09-22 17:49:09) (良:2票) |
20.《ネタバレ》 昔三国連太郎主演の「王将」を見ていたので、ストーリーはよく覚えていたし名作だとは知っていた。しかし念願の阪東妻三郎版を見てみると、単なる名作どころか大感動作である。夫の勝利を祈る「南無妙法蓮華経」が、 映画のラストでは危篤の妻へ回復を祈る願いとなる。そして握りしめられた王将の駒、これ以上に私の心を動かすものはなかった。 【ESPERANZA】さん [DVD(邦画)] 9点(2014-02-17 07:55:12) (良:1票) |
19.《ネタバレ》 いや、さすがにあそこで2五銀は無いよなあ、と思ったんですけどね、やっぱりハッタリでしたか。阪田三吉と言えば、伝説の端歩突きもありますからねえ。実在の三吉はこういう変な手を打っては負けちゃう(笑)のですが、物語の三吉は、勝ってしまうことでドラマを生む。将棋指しの戦いは孤独なもの、と思われるところ、この映画には棋士の孤独さというものは無くて、常にそこには彼の家族の姿があって。破天荒であった彼が、ライバルであった“関根はん”に名人位を譲り、頭を下げる、まさに彼が名人たりえる風格を得た時に、彼を支え続けた妻が電話の向こうで息を引き取る。多分にメロドラマ的なんですけれどもなかなかにツボを押さえていて、ダイナミックなカメラワークがあり、ついでに言うと古い映画なのに音声が比較的明瞭な状態でもあり、古い映画に馴染みの無い人でもかなり楽しめる作品ではないでしょうか。それにしても、こういう主人公の姿を見ていると、藤山寛美を連想したりもしますなあ。 【鱗歌】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2012-08-06 22:49:12) (良:1票) |
《改行表示》18.《ネタバレ》 これ実話モノなんですね。 個人的に、プロの将棋世界には昔から興味があったので、楽に理解することができました。 その点も、本作を楽しむに当たって、とても有利に働いたようです。 さて、主演のバンツマの演技ですが、とにかく素晴らしい! このバンツマの傑出した演技が本作を傑作にまで昇華させている。 それだけバンツマの演技は凄まじい。 そして脇役の斎藤達雄だが、小津監督のサイレント時代に何度も観たことがある俳優さんなので、トーキー映画で声を聞けてびっくり。 こんなソフトな話ぶりの方だったんですね。 (追記) あれ?!一つ下の方のコメントを拝見してビックリ! 今日、本作が衛星で放映されたんですね・・・ わざわざ私は遠出してまでレンタルして観たのに。 私も早く衛星放送を契約したい! やっと、経済的に余裕が出てきたので、一日も早く契約するぞ!! うりゃ!! ナンミョーホーレンゲーキョー ナンミョーホーレンゲーキョー 【にじばぶ】さん [ビデオ(邦画)] 8点(2008-01-05 21:13:25) (良:1票) |
《改行表示》17.《ネタバレ》 「雄呂血」で大暴れする姿など、私にとってのバンツマはいずれも時代劇でのもの。今回、現代劇ではじめて拝見!味があって笑顔に愛嬌があって驚いた。所作に歌舞伎的な動きが目立つんですが、それにはオーラが感じされられる。坂田三吉は文字さえまともに読めず「規則」の意味さえ知らない男だが、正義感・暖かい心・愛嬌がある関西人。これを見事に演じた。関根八段(滝沢修)が名人となり、そのお祝いに大阪から東京へ駆け付けるが、妻が病床に伏し亡くなってしまう。電話で妻に呼びかける阪妻の迫真の演技による名シーンといえるのですが、10分以上の間、名人となった本来の主役である滝沢修が俯いたまま。もう置いてけぼり状態。これは、ちょっと過剰すぎる演出にみえた。 裕福とは言えない市井の貧しい生活をしながら将棋に打ち込む姿。献身的な妻の姿。そして、「ハッタリ」の辛勝を非難する娘。これらは当時の「日本の美徳」とされる部分をしっかり演出に盛り込んでいるところはさすがですね。もはや「将棋もの」というよりは「家庭ドラマ」です。家族や長屋の人間に迷惑をかけっぱなしだが、アマチュアながらプロの棋士を倒していく浪花のボクサー(じゃなかった)浪花の棋士を描いた前半部分の方が印象に残ってます。(NFC「撮影監督特集」) 【サーファローザ】さん [映画館(邦画)] 7点(2007-10-11 14:17:53) (良:1票) |
16.阪妻の現代劇みたのはこれが最初。辰巳柳太郎の「王将一代」見てから改めてみるとやっぱ阪妻はコミカルさが違うなと思う。水戸光子も三條美紀も印象に残る役。二五銀のくだりが一番好き。鏡を見て変わる場面なんかはかなり素晴らしい。ラストシーンも滝沢修が実に武士っぽくて好き。ライバル関係っていいなぁと。 【バカ王子】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2005-10-22 21:30:27) (良:1票) |
15.坂東妻三郎の演技が凄い、体の演技は三船敏郎が一番だと思っていたがバンツマが一番かもしれない。立ち居振る舞いや後ろ姿で人格や人生を表現してしまう凄さ。とくにラストの後ろ姿に泣いた。バンツマの演技に10点だけど。カメラワークについて、少しカットが忙しすぎる印象がマイナス1点。 【ブッキングパパ】さん [映画館(邦画)] 9点(2021-11-09 18:12:33) |
《改行表示》14.《ネタバレ》 むぅ、さすが名画たる風格がある。 これが有名な坂田三吉か! 自分は初めて見る坂田三吉が板妻で幸せだった。 レンタル屋に感謝せねば・・ 自分が初めて知ったのは漫画「ドカベン」の坂田だった。 貧しい暮らしの長屋の向こうに通天閣を思わせる建物があるのがニクイ。 板妻はキャラが立っている。 この頃の漫画家は映画を観て、作品のキャラを創っていけるほど、 芳醇な世界がスクリーンの向こうにあった。 【トント】さん [DVD(邦画)] 7点(2019-05-06 02:24:03) |
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13.《ネタバレ》 将棋の世界の美学はどうなのか知らないケド、追い込まれた末に例えヤマカンで打った手で勝ったとしても、それはそれでいいのではないかなと。起死回生の一手的な。品がないとかボロクソ言われてたけどね(苦笑)。目の手術をしてたけど当時の医学技術でよく治ったねとか結構トントン拍子でうまくいったねとか、何か多少好都合な展開が気になった次第でゴザイマスハイ 【Kaname】さん [DVD(邦画)] 4点(2016-08-06 05:44:52) |
12.《ネタバレ》 妻との別れの場面が関根に祝いを述べた場である事を考えると感慨がかき消されてしまいました。あっさり名人位を譲った心境も頷けないもので消化不良な作品でした。 |
11.40歳の阪妻イケメンですね。坂田三吉の実話ものであり脚色はあると思いますが面白い作品でした。それにしても三島雅夫はこの頃の映画に良く顔を出しますね。 【ProPace】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2014-08-09 22:39:04) |
10.《ネタバレ》 なにより小春に「日本一の将棋指しになって欲しい」と励まされて、再度将棋の道を歩き始めているワケですので、名人位にはもう少し執着する姿を見せて欲しい。結果、関根棋士に譲ることになるとしても。また、将棋も詰まるところは心理戦。2五銀が破れかぶれであろうと、相手のペースを乱した立派な一手。反省などする必要は全然ありません。阪妻の坂田三吉は無垢で魅力的なんだけど、もう少し行儀が悪くても良かった。 【なたね】さん [CS・衛星(邦画)] 3点(2012-09-23 14:46:54) |
9.《ネタバレ》 前半は何が描きたいのかよく分からない感じで、主人公のキャラクターに寄りかかっているだけではないかという気がしていたのですが、関根との決戦以降はきちんと物語になっていました。本当は、将棋そのもののディテールも踏まえてほしかったのですが、さすがにそれは無理でしょうね。 【Olias】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2012-08-23 00:39:18) |
8.先に勝新太郎版を見ていたため、こっちが古いとは知っていても純粋にストーリーを楽しむのは難しかった。あとは役者の比較になってくるけど、鬼気迫る演技で常に力んでいたイメージの勝新太郎に比べ、阪東妻三郎はとにかくソフト。心の底から将棋が大好きで、将棋を楽しんでいる。小春はつらかっただろうが、バンツマからにじみ出る優しさのせいで、そんなに不幸せには見えない。役者の個性は面白い、三國連太郎版も機会があれば観てみたいと思う。 【リーム555】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2012-03-20 18:04:23) |
7.《ネタバレ》 いい映画でした。家族を思いやるそれぞれの心情がよく出ていました。とはいえ、私も最後はちょっとやり過ぎと感じました。あと、途中字幕で説明しているのもうまくないでしょう。しかしそれを差し引いても、すばらしいと思います。特によかったのは、関根名人に勝ったものの、苦し紛れだったのにと娘になじられる場面。妻が親子心中したと思って、長屋に駆けつける場面もうまい。それから小春が帰ってきて、将棋をやめるやめないのやりとりも感動的でした。 【アングロファイル】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2012-03-19 20:31:13) |
6.2012.03/17 鑑賞。阪妻47歳と若く田村 高廣と似ていた、水戸29歳で綺麗に撮ると松たかこ似、大友36歳でこの若さにはビックリ、滝沢42歳だが若作りで渋い、など映画の内容よりミーハー的な興味が満たされた。映像、演出に古さを感じるが俗に言う坂田三吉・お春の夫婦愛はいいね。また周囲が善良な人々で描かれ落ち着く。 【ご自由さん】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2012-03-17 17:58:29) |
5.大阪・浪花の典型ですな。上品なもの(東京的なもの)に対するもう理屈抜きの反感、人間臭さ、八方破れといったものの肯定、「男ドアホ」の世界であります。女房への甘えかかりも、あんな人ひとりで生きていけへんやろ、で釣り合いが取れちゃう。本物の坂田三吉は、それほど野人じゃなかったそうだが、一つの型がもう出来ちゃったもんね、この映画のせいなのか。阪妻はかなりクサいことやってるんだけど、浪花ってことでちゃんと型になっちゃう。これ江戸っ子だったら、ちょっとカナワンナアになるんじゃないか。蒸気機関車が走り抜けていく長屋の人懐っこい雰囲気も、浪花的。ちっとも「移動大好き」じゃないじゃないか、と思ってたら、会場から家へ走って帰るところでカメラが走った。三島雅夫と夜、縁台で昼の試合をやり直しているシーンなんか、いい。私のこれのノートの最後に、「ライオツ歯磨」とだけ書き込んであるんだけど、こりゃいったい何だったんだろう。 【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 7点(2010-11-08 09:54:27) |
《改行表示》4.こういう評価をすると、分かってないなあと笑われそうですが... 確かにバンツマの演技は素晴らしいですが、それに頼りすぎているように思えました。坂田三吉の伝記映画にはなっていますが、ストーリーが楽しめませんでした。 (画質的に鑑賞に堪えない部分があることも、楽しめなかった理由かも知れません。) 【くろゆり】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2008-01-05 18:23:21) |