《改行表示》 6.主人公夫婦は聾唖者なのでセリフがなく手話で会話する。言葉は字幕で示されるが夫婦、特に高峰秀子は表情や仕草で字幕以上の豊かな感情を表現し伝えてくる。誰もが貧しく苦しかった時、障害者夫婦にはさらに厳しい時代だった。働く場も限られるし、聞こえないばかりに子供も死んでしまう。家族も問題を抱え、頼れるどころか母親の面倒まで見なくてはならない。そんな苦しい生活の中でも懸命に働き、子供を育て生きていく。まさに題名どおりの人生で、しかもやさしい秋子は報われないままだ。暗い話なのだが、けなげに一生懸命生きる夫婦の姿にいつ見ても感動して泣いてしまう。聾唖の会話シーンはサイレント状態に近いが全く不都合を感じず、全身で表現する姿はむしろ豊かな情感をイメージさせる。 この後、父と子の続編もできたが(高峰がいないせいか)精彩を欠き、本作にはまるで及ばなかった。 【キリコ】さん 9点(2004-01-29 23:15:56) (良:2票) |
5.《ネタバレ》 聾唖者夫婦の十数年間の人生を描いた松山善三監督のデビュー作。こういう映画はつい身構えて見てしまうのだが、松山監督が助監督をつとめていた木下恵介監督からの影響も見られる年代記もので、聾唖者(に限らず障害者)が世の中で生きていくとはどういうことかということがよく描かれていて、最後まで素直な気持ちで見ることができた。産まれてくる子供が聾唖者だったらという不安、妊娠したことを母親(原泉)に笑顔で報告に行った秋子(高峰秀子)が母親から出産を反対される辛さ、産まれてきた子供を聾唖者であるがゆえに事故死させてしまった辛さ、次に産まれてきた子供である一郎(島津雅彦)から聾唖者であるがゆえに避けられてしまう辛さ、耳が聴こえたらという秋子の苦悩、そしていわれのない差別。そういう辛さが見ている側であるこちらにもじゅうぶんに伝わってきて主人公夫婦につい感情移入させられてしまうし、そんな中でも二人で力を合わせて生きていこうというこの夫婦の生き方は本当に美しく、勇気づけられる。「私たちは一人では生きていけません。お互い助け合って普通の人に負けないように生きていきましょう。」という秋子のセリフにも心打たれた。既に書かれている方もおられるが、弟(沼田曜一)にミシンを持っていかれ、失意のうちに自殺を考え、家を飛び出して電車に乗った秋子を道夫(小林桂樹)が追いかけ、車両の窓越しに手話で説得するシーンは本当に名シーンで、道夫が秋子に言われた言葉を今度は秋子に言って説得するのが泣けるし、このセリフにあらためて「人はひとりでは生きていけない」ということを考えさせられた。松山監督の代表作ともされている映画だが、ハンディを持っているからといってけっして特別な人間(←こういう表現は個人的にはきらいだ。)などではなくたとえハンディを持っていてもそれ以外は普通の人間と変わらないのだという松山監督のメッセージのようなものが感じ取ることができて良かった。賛否両論ある秋子が交通事故死するラストだけは安直なお涙頂戴に走った気がしないでもなく、普通にハッピーエンドでも良かったような気がするが、(でも、意図としては分からないではない。)それでも本作は紛れもない名画で、本当に見て良かったと心から思える映画だったと思う。また、昭和36年というまだ今よりも障害者への理解が進んでいないと思われる時代に作られたことも評価したい。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 8点(2015-07-24 01:52:31) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 聾唖者の日常生活における困難がていねいに描かれる。健常者と見た目では違わないことが、かえって生活を難しくしている場面もある。駅員に呼び止められるとこ、聞こえない振りしていると思われてしまうつらさ。あるいは子どもの泣き声が聞こえないつらさ。随所に生活の落とし穴が待ち受けている。そして子どもを持つことそのものの心配。社会に対する不安だけでなく、内側からも不安が湧いてくるわけだ。しかし満員電車の他人たちの中で、隣り合った車両からプライベートな会話を交わせるというシーンでは、聾唖者ならではのわずかな利点が貴重なものとして光っている。けっこうホロッとしたのは、多々良純の場。息子の賃上げ要求を一度は追い返し、いかにも多々良純的な態度を見せながら、それもそうだと後でやってくる。「庶民のせちがらさ」と、ときにはそれを越える筋の通った「庶民の条理」を見せて嬉しいシーン。オリンピックへ向けて破壊が進んでいた「戦後東京」の風景が、かろうじて記録された。最初に撮影玉井正夫・美術中古智と見てしまったせいか、成瀬チックな味わいがその風景の中に匂い立つ。ただラストの展開はどうだろう。聾唖者にとっては、視力が弱まるだけでいかに危険な社会になっているかということを言いたいんだろうが、「なにもそこまで」とゲンナリする気持ちのほうが強い。視力の弱まりは医者の言葉で知らされただけで、描写としてハッキリとは提示されてなく、だからいかにもドラマチックにするためだけの展開、って感じになってしまっていて、あれではせっかく訪ねてきた加山雄三の立場もなかろうというものだ。 【なんのかんの】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2010-10-12 09:57:55) (良:1票) |
《改行表示》 3.《ネタバレ》 心洗われる傑作。 小林桂樹が言ったセリフで、 「家族がいさえすれば幸せだ」 というのがとっても印象的。 家族ってのは、苦楽を共にし、そしてどんなに辛い出来事があっても、家族の幸せのためなら頑張れる、そういった強いメッセージを感じ、共感できた。 家族の為なら懸命に働く。 優しい夫ながら、そういった強い意志を持った目標にすべき父親像である。 残念なのは、ラストで高峰秀子が車に跳ねられ死亡するシーン。 別にハッピーエンドじゃないからダメとか言う意味ではなくて、この内容でこの展開なら、こんなオチは不要なんじゃないか?という意味でだ。 貧しいながらも、いつかは楽になることを夢見て、家族が一致団結して生きていく。 そういうストレートな終り方で良かったんじゃなかろうか。 聾唖者の様な障害を持った人は、不遇な人生から最後まで逃れられないんだ、ということを主張したいが為のラストだったのだろうが、せっかく作品全体で前向きな人生訓が語られているのに、これではそもそも意味が・・・という脱力感に襲われるのがよろしくない。 【にじばぶ】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2009-07-30 00:28:40) (良:1票) |
2.文句なしに素晴らしい人間ドラマ。高峰秀子は本当に素晴らしい役者。小林桂樹も素晴らしい。有名な電車のシーンはわかっていても泣けて泣けて仕方ない。全ての人に一度は観てもらいたいと思う。絶対に人生に対するスタンスが違ってくる筈。こんな素晴らしい作品が普通につくられていた邦画の50年代ってなんて凄い時代だったのか。ラストのもっていきかたがどうしても他になかったのかと思ってしまうのでマイナス1点にしてしまうけど、10点に限りなく近い9点。 【Sean】さん [CS・衛星(邦画)] 9点(2007-11-19 14:50:39) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 初めて観たのは随分、前のことであるけど最近、DVDで買ってきたので久しぶりに観たけど、初めて観た時以上に感動しました。この作品、タイトル通りの名もなく貧しくても本当に美しい人間ドラマの名作です。耳の不自由な二人が一緒になり、どんな困難にもお互いを本当に心から愛し合い、そして、助け合いながら一生懸命生きる姿は本当に美しい!主演の二人、小林桂樹と高峰秀子の演技が本当に素晴らしいです。大切なみしんを奪われてしまい、生きて行くことなどもう出来ないと姿を消そうとする高峰秀子演じる秋子を追いかけていく道夫、そして電車内での二人の会話、泣けます。そんな二人のことを最初は嫌っていた息子、一郎も最後は二人のことが大好きです。特に事故により亡くなってしまった秋子のことを作文として言う一郎にはこれまた泣かされた。いずれにしてもこの映画を観て感じることはどんな苦しい環境に置かれても生きることの素晴らしさ、人と人との結びつき、愛情、その全てが本当に美しく描かれていて一度観たら絶対に忘れることの出来ない素晴らしさがあります。それにしても高峰秀子、この女優の演技は凄い!「二十四の瞳」といい本当にこの女優は観る者に感情移入させてしまう恐ろしさ、素晴らしさを持った日本を代表する名女優の一人だと言って良いでしょう!最後に私もこの映画の中で流れる音楽がどこかチャップリンの音楽を思わせるものがあると思いました。 【青観】さん [DVD(字幕)] 9点(2005-12-15 22:10:55) (良:1票) |