3.《ネタバレ》 前作は渥美清さんへの追悼という意味もあって映画に対する想いがふんだんに詰まっていましたが、本作は主人公の職業の移動映画館主という設定程度で映画愛というよりも恋愛をテーマにしている感じです。
主人公の夢から始まる失恋コメディ、寅さんっぽいですが明らかに山田監督が今まで撮って来たコメディ映画の縮小再生産となっています。
渥美清さんと西田敏行さんとでは言葉通り役者が違いますし、西田さんでは表現しきれない所があったと思います。
渥美さんと比べて軽いキャラクターの為に松江との一晩の恋が成立した事は自然に描けていて良かったと思いますが、後日松江の家を訪ねた行為を船上でバカな事だったと反省するシーンは見ている側に哀愁を感じさせなければ成立しないのに、余りそれが感じられないので西田さんの残念な演技に対する哀愁とは別の悲しさを感じてしまいますし、活男が本当にデリカシーのない単なるバカな男にも見えてしまいます。
西田さんには西田さんの活男が有りそれを演じていたとは思いますが演技の深さのようなものが渥美さんとは決定的に違う印象でした。
西田さんと渥美さんを比較したら酷とも言えますから、それ以外の所でアドバンテージを取る必要があるので山田監督が脚本を今迄以上のものにしなければいけないのにそうはなっていません。
笑いもパワー不足ですし要所々々を引き締めるメッセージもそれ程響くものもなくシリーズを通してのテーマである映画愛に対しても失速してしまっています。
また、祝一家は奄美の島の人には見えませんでしたし、特に田中邦衛さんの配役は疑問に感じてしまいます。
演出に関しても作品のメインとなる映写機が壊れて活男と節子が歌い出し島民が島唄で踊るシーンや、最後の東京の亮と奄美の活男の虹に関する会話等も盛り上がりに欠けていた印象でした。
渥美さんという山田監督の脚本の行間まで演じきってしまう役者さんが居なくなってしまった今は、監督がきっちり行間の思いまでも脚本で書ききらなければ作品の質をキープ出来ないのではないかと思ったのと同時に、山田監督作品での渥美さんの存在の大きさを改めて感じてしまいました。