20.《ネタバレ》 アニメ畑の出身である人が監督した作品にしては、あまり非現実的な内容でない辺りは嬉しかったですね。
ちゃんと、こういう人情劇も撮れるんだぞ、と証明してもらったような感覚。
木下恵介監督の作品は「カルメン故郷に帰る」「楢山節考」「二十四の瞳」くらいしか観賞していないのですが、劇中にて主人公が後の創作のアイディアとなったであろう場面と遭遇する流れでは(おっ……)と思わされました。
正直、それまでは(別に木下恵介が主役じゃなくても良いよなぁ)と思っていただけに、失望が喜びへと変わる瞬間を味わえたという形。
終盤にて、上述の経験から生み出された木下映画の数々が、延々十分以上もダイジェストで流れる演出なのですが、それを踏まえて考えると、事前知識が一切無い方が(あぁっ、あれって伏線だったのか!)と感動出来そうな感じですね。
最後の1コマでは、原監督お気に入りの「青空侍」を連想させるような演出もあったりして、彼のファンならば作中の木下恵介を原恵一と重ね合わせて楽しむ事も出来るかも。
難点としては、原恵一監督が木下恵介を尊敬するがゆえなのか、作中人物が全員「木下監督の作品は素晴らしい」と主張する立場で固められており、少々胡散臭いというか、創作者にとって優し過ぎる世界だな、と感じられた事でしょうか。
結局、この映画の中で主人公に批判的な人物は、顔も見えず声も聞こえない「検閲を行う軍部」しか存在しておらず、映画会社も、家族も、庶民代表のような便利屋さえもが、全て主人公の映画を絶賛して、応援してくれているのです。
にも拘わらず作中では「不遇の天才」であるかのように主人公を同情的に描いているのだから、何とも妙なバランス。
主人公が不貞腐れる事になる冒頭のシーンでは「特攻隊の映画を撮ろうと思ったら中止になった」という障害しか発生していない訳で、可哀想は可哀想だけど大袈裟に嘆く程でもないよな……と感じられるのです。
監督をクビになった訳でもないし、映画会社の人は別の映画を撮ろうと優しく提案してくれているにも拘わらず、自分の映画に文句を付けられたのが気に食わなくて癇癪を起こしたかのように田舎に帰ってしまう。
そりゃあ自由に映画を撮らせてもらえないのが嫌なのは分かるけど、そのくらいの躓きで映画作りを諦めて監督辞めると言い出すだなんて、それは芸術家としての美点ではなく欠点ではないかと。
「木下恵介って人は、そんなに映画作りの情熱に欠けた人だったの?」
「周りが皆揃って自分の作品を絶賛して応援してくれないと映画を撮れない人なの?」
なんて思えてしまうのだから、伝記映画としては、ちょっと頂けない内容でした。
母親の顔をハンカチで拭う件など、感動的な場面でやたらと大袈裟なBGMが流れるのも気になるところ。
ここも、監督さんとしては「木下恵介の母想いな優しさ」を強調したいという、善意ゆえの演出だったのかも知れませんが、少々押し付けがましく感じられて、残念。
漬物屋で育ち、大の漬物嫌い。黒澤明とのライバル関係。同性愛疑惑があってスタッフに美青年を採用していた等々の、エキセントリックな要素は「故人の名声を傷付ける」とばかりに排して、優等生的に仕上げたのだとしたら、何とも寂しい限りですね。
作り手の誠意は伝わってくるだけに、何だか心苦しいのですが、自分としては違和感の大きい映画でした。